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泡のように
第27章 26.
 そして、太陽をモチーフにしたと思われる細かい時間がまったく読めない時計にチラリと視線をやる。
 午後7時。
 今日は昼に学校でお弁当とは名ばかりのおにぎりを1個食べて以来、たったいま8分の1に切り分けたメロンを食べただけで、ほかには何も食べていない。
 お腹がグーッと低く鳴る。
 視線をレイナに移す。
 レイナは1滴も拭き残しのないピカピカに光ったガラステーブルを、まだ納得いかないのかこれでもかと擦っていた。

 雰囲気から察するに、夕飯をご馳走になれる、みたいなラッキーな出来事は起こらないだろう。
 今朝覗いたお兄ちゃんの冷蔵庫の中身がプロテインと生ワカメだけだったことを思い出して暗い気持ちになった。

 そんな私の心中を代弁するかのようにアキホが口を開いた。

「なぁ、はらへったよー」

 まるで子供みたいにお腹を手でさすって空腹をアピールしている。
 タカシも同様のアピールをしていた。

「え?ほんと?メロンじゃ足りなかった?仕方ないなぁ」

 レイナはめんどくさそうに立ち上がり、キッチンに向かう。
 しめしめと思っているとすぐに財布片手に戻ってきて、中から五千円札を取り出すと「はい」と言ってアキホに手渡した。

「2人で好きなの食べてきなさい」

 呆気に取られる私の横で、アキホはメロンと同様に「ヤッター」と言いつつ、五千円札をタカシにそのまま手渡した。
 タカシはレイナが背を向けていたのをいいことにアキホの尻に触り、アキホは待ってましたと言わんばかりに顔をくしゃっと歪めると、2人で手を繋いでリビングのドアの向こうに消えてしまった。
 余談だが、仲間に寄せてもらえないというのは親しい関係であろうがなかろうが、なかなか寂しいものである。

「ごめんね、わたし、キッチンを汚したくないから料理しないんだ」

 今度はテレビの上を台ふきんで拭きながら、レイナは笑顔をこちらに向けた。



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