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泡のように
第27章 26.
 料理をしない、とここまでキッパリと言い切る主婦というのも珍しいだろう。
 アキホは悪びれる様子もなく、そこらじゅうを拭いて歩いていた。
 部屋が汚れると心まで汚れると言うならば、この、ホコリひとつ見当たらない部屋に住む彼女は、こんなにもそこらじゅうを神経質に拭いて歩くことによって、心の中のどんな汚れを落とそうとしているのだろう。


「元来料理は好きなタチなのよ?でも、この仕事に出会って、この仕事をするようになってから、料理することによって汚れてしまうキッチンを見るのがね、耐えられないくらい苦痛に感じるようになっちゃったのよ。ふふ、こんなのって、本末転倒よね?」

 はいそうですねとも言えず、ひとまず底辺校在学中の脳をフル回転させて返答を探す。

「あ、へぇ、ふうん・・・なるほど・・・・」
「おかしいわよね?効率よく使えるキッチンなんて世間にアイデア出して、しょっちゅう取材にまで来てもらってるのに、本当は全然料理をしないなんて」

 底辺校の脳ではフォローの言葉も浮かばず、もちろん、その通りですねとも言えず、ひとまず、沈黙。

「それより髪切っちゃったの?」
 
 レイナはカーペットの位置をしきりに気にしながら、相変わらず私に笑顔を向けている。

「はい、アキホさんが切ってくれました」
「そうなんだー。可愛いよ。よく似合ってる」

 本人なりにカーペットの位置に納得したのか、レイナはようやく私の隣に腰を下ろした。

「今日篤志は学校かな?」

 そして、当然のように、まるでこの前お兄ちゃんにしたみたいに、両手で私の髪の毛を撫でる。
 真っ直ぐに鳶色の瞳に見つめられて、私もドギマギしてしまった。

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