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泡のように
第27章 26.
 混雑する駅前の十字路を右折して、国道を走る。
 国道から、中央環状線へ。
 BGMはラジオだった。
 バックミラーにまりもっこりのキーホルダーがぶら下がっている。
 車の振動に合わせてブラブラと左右前後に揺れているいやらしい笑みを浮かべたみどりいろの生物は、どことなく先生の笑顔に似ている気がした。

「けしからん奴なのは、私ですよ」

 どうしてこの人にそんなことを言ったのか、よく分からない。
 空腹によるイラつきは、空腹の絶頂を超えたせいもあるのか、いつの間にか自分自身に対するイラつきへと変化していた。

「私ね、二股かけてるんです」

 言ってから思ったことだけれど。

「片方はずっと好きだったけどフラれちゃって、もう片方は、まえの人にフラれてから出会って付き合いだした人なんです。あとから出会った彼氏に結婚しようって言われたのに、最初の彼氏が今になってやり直そうって言ってきて、どうしたらいいかわからなくて、宙ぶらりんなんです」

 初対面である、息子の義理の妹からいきなりとてつもなく貞操観念の低い告白を受けたにも関わらず、おじさんは驚くでもなく、嫌な顔をするでもなく、ただ、ふぅん。と鼻を鳴らしただけで。
 
「最低なんです。私」

 お兄ちゃんと似たような顔と背格好だけど、雰囲気が佐伯さんに似てる気がするって。

「そっかー。智恵子ちゃん、いろいろ、あったんだねぇ」

 だからつい、お兄ちゃんの実の父親だってわかってた上で、話してしまったのかなって。

 

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