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泡のように
第28章 27.
 12棟の前に車が停まり、エンジン音が止む。
 エアコンが切れた車内は途端に湿度が発生し、全身に不快感が広がっていく。
 おじさんは相変わらず笑っていた。

「分からない?」
「わかるわけないじゃん」
「変な子だね。さっき君、言ったろ?誰かに愛されたかったって。だから初めて自分を抱いた人とか、自分を受け入れてくれる人を手放せないって。レイナも同じことだよ。レイナには俺しかいなかったから、俺が初めてレイナを抱いた人で、初めてレイナを受け入れた人だから、手放せないだけ。俺の言ったアイシテルって言葉を信じて、お兄ちゃんにだけは愛されてるって自分自身を騙して、保ってきただけのこと。そういうの、愛って呼ぶ?世間一般の感覚で」

 言葉が出なかった。

「俺はレイナのことを愛していると思ったことなんて、一度もないな。レイナが望む、レイナを心の底から愛している優しい兄貴、ってのを演じることが俺にとって有利な生き方だったから、そう生きてきただけ。そうそう、レイナに合わせてやってるだけ。ラブラブな夫婦ですよ、毎日キスして、セックスして、でもほんとは兄妹なんですけど、って世間様には隠してるってテイで。ほんとは全然レイナになんか興味ないよ。だって妹なんだよ?妹を女として愛せると思う?」

 汗が、額から鼻筋を垂れる。
 おじさんはなんてことない顔で私の方を見た。

「あれ?もう、バカって罵ったりしないの?」
「バ、バカだと思うよ?それはおじさんの意見だよね?だって愛してもない人に、愛されてもないのに、子供を2人も生んで、あんな声になるまで働けるわけ」
「え?君なに言ってるの?君が一番レイナの気持ちを理解できるんじゃないの?」

 え?
 疑問符を投げる勇気がなく、口の中で言葉が消えた。

「だって君も、そうじゃん。結局は愛されてもないのに、愛のようなものを愛だと信じたくて、そいつらに縋ってんだろ?自分の心の中の本音を見ないようにして。そんなの、愛とは呼べないよね?」

 心臓が痛いくらい鳴っている。
 そういえば、車に乗ってからおじさんは、一度も目を合わせてくれない。
 それは、シャイ、だから?

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