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泡のように
第29章 28.
 風呂から上がってもなお居間に転がったままだった私を見て、おっさんはいよいよ本格的に心配したらしく、柄にもなく部屋からタオルケットを持ってきて私の身体に被せてくれた。

「ありがとう」

 冷房で冷えすぎた身体にガサガサのタオルケットの素材感が心地よい。
 私のほうも柄にもなく素直に礼を言うと、おっさんは不思議そうな顔で私を見下ろしていた。
 思えば、おっさんが私の身体の上に乗った日以来、おっさんに礼を言ったのはこれが初めてだったからだ。

「なんだ、今日はやけに素直じゃないか」

 おっさんは「俺ってたまにはいいことする素敵な父親だぜ」的な表情を浮かべながら台所の食卓テーブルに腰掛け、首に下げていたタオルを取ると、ヨボヨボの身体にトランクス一丁というワイルドからはかけ離れたいでたちのくせに、至極ワイルドぶった仕草で濡れた髪を拭き始めた。

「急に帰ってきたりしてどうしたんだ?男に捨てられたりでもしたのか?髪もそんなに短くして」

 髪をゴシゴシとタオルで拭く度に、たるんだ上半身が揺れている。

「1年の時の担任だって?よくもそんな恥さらしなことが出来るよな。捨てられて当然だ。どうせお前の身体目当てだったんだよ」
「ねぇ、お父さん」

 おっさんは豆鉄砲を食らったマヌケな鳩みたいな顔で私を見つめている。
 おっさんを見つめながら起き上がり、キャミソールを脱いだ。
 がさがさのタオルケットがするりと落ちて、おっぱいがおっさんの前に露わになる。
 
「もう私を抱きたいとか、思わないの?」

 おっさんは私の身体に視線を釘付けにしつつ、しかし明らかに戸惑っていた。
 お父さん、なんて最後に呼んだのはいつだっただろう。
 一番不健全に思えた男との関係が、今では一番健全に思える。
 なぜならばこの男は、私の前では欲望を違う形に装うことをしないからだ。
 
「ちえ・・・お前、どうした?今日はなんか、おかしいぞ」

 やっぱこいつ熱があるんじゃね?
 いいや、もしかしたら新型インフルエンザか何かに感染してんじゃね?的な顔だ。
 しかし股間は知性と反比例して、貧相な身体と比例した実に貧相なものが、トランクスの中で私を求めて立ち上がっている。
 お兄ちゃんのものとも、先生のものとも足りない、貧相で、哀れなものが。
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