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泡のように
第29章 28.
お兄ちゃんはやっぱり、チェーンを掛けたままドアを10センチばかり開いた。
いつもと同じくオドオドした仕草でドアの隙間から私を見下ろしている。
「よかった。帰ってて。入れてよ」
先生が呪われたフランス人形みたいだと比喩した大きな鳶色の瞳は、短くなった私の髪と汚れたセーラー服を熟視するように何度か瞬きの下に隠れたのち、ドアの中に消えた。
そしてすぐ、再び、今度は大きくドアが開いた。
「遅かったんだね。待ってたんだよ」
勝手に冷蔵庫を開けて、中から、お兄ちゃんが買って帰宅したらしい赤いキャップのコカ・コーラを取り出してフタを回す。
ガスの抜ける音を聞いてから飲み口を直接唇に当てると、お兄ちゃんはいつものように陰気な表情で答えた。
「ごめん。残業だったから」
お兄ちゃんは私の髪にも汚れたセーラー服についても、何も触れないまま、つかれた、と深く溜息をついて、畳の部屋へ行ってしまった。
キンキンに冷えた炭酸が喉を刺激しながら下っていく。
「そっか。おつかれさま。ねぇ、合鍵くれないの?」
唇を離してすぐ喋りだしたせいで、口の中に残っていたコーラが口の端から垂れた。
それはセーラー服にまで落ちて、ちょうど乳首の先端のあたりに染みを作った。
いつもと同じくオドオドした仕草でドアの隙間から私を見下ろしている。
「よかった。帰ってて。入れてよ」
先生が呪われたフランス人形みたいだと比喩した大きな鳶色の瞳は、短くなった私の髪と汚れたセーラー服を熟視するように何度か瞬きの下に隠れたのち、ドアの中に消えた。
そしてすぐ、再び、今度は大きくドアが開いた。
「遅かったんだね。待ってたんだよ」
勝手に冷蔵庫を開けて、中から、お兄ちゃんが買って帰宅したらしい赤いキャップのコカ・コーラを取り出してフタを回す。
ガスの抜ける音を聞いてから飲み口を直接唇に当てると、お兄ちゃんはいつものように陰気な表情で答えた。
「ごめん。残業だったから」
お兄ちゃんは私の髪にも汚れたセーラー服についても、何も触れないまま、つかれた、と深く溜息をついて、畳の部屋へ行ってしまった。
キンキンに冷えた炭酸が喉を刺激しながら下っていく。
「そっか。おつかれさま。ねぇ、合鍵くれないの?」
唇を離してすぐ喋りだしたせいで、口の中に残っていたコーラが口の端から垂れた。
それはセーラー服にまで落ちて、ちょうど乳首の先端のあたりに染みを作った。