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泡のように
第31章 30.
 揃ってろくに衣服も身に付けず裸足のまま、慌てふためくお母さんのまんまるい背中に続いて彼らの寝室に駆け付けると、なるほど納得とでも言うべきか、確かに山岸のおっさんは死んだようにグッタリと顔全体を赤紫色に腫らし、鼻や口から血を流して、ベッドの上に横たわっていた。

 私が部屋を出るときに見た姿のまま、つまり、全裸で。
 哀れなアソコは、仮性でなく、真性と呼べるほどに皮を被り、しょぼんと、だらんと、哀れな主と共にぐったり横たわっていた。



 笑ってしまったのは、お兄ちゃんだけではなかった。
 怒られたのは私だけだったけど。

 

 
 お母さんは、おっさんの手当を終えたあとで、どうしてこんな酷いことしたの、って泣きながらお兄ちゃんに詰め寄ってた。
 それでお兄ちゃんが、上半身裸にボロいハーフパンツ一丁っていでたちでポケットに手ぇ突っ込んでニヤニヤしながら「妖怪のせいかもね」って答えたからって、腹いせに5回も私の頭をぶつことないじゃんね?

 
 あの晩から約1ヶ月半、山岸のおっさんが全治したかどうかすら知らないあいだに、お母さんは姓を山岸から鈴木に戻す事態となっていたらしい。

 いくら私が描いたシナリオとはいえ、原因は4年前のおっさん自身にもあるのだ。
 だから、私が反省することなんて、なにもないだろう。
 離婚にまで発展したのは、ちょっと意外だったけれど。
 イカれた家族からイチ抜けた!
 とでも言いたげに、出て行くおっさんの顔には迷いはなかった。
 けれども、最後に私に詫びたのは、そもそもの自分の選択と行いを、後悔したからだろうか?
 まさか、欲望のはけ口にしたこどものうしろに、もっと大きな欲望を孕んでいる人間がついていたなんて、考えもしなかった、過去の愚かな自分を。



 おっさんのアレが恋しいなら、自分の指を突っ込んだって、変わらないことでしょ?お母さん、指太いから。
 まだ来ない月経を待ちわびるような、拒絶するような、甘美な疼きの中で、お兄ちゃんの耳元に囁くと、お兄ちゃんは素直に笑い声を上げていた。



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