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泡のように
第31章 30.
 どれくらい経ったのだろう。
 唐突に、肩をつつかれた。
 
「おい、起きろ」

 小声でそう言って、反応のない私の肩を、もう一度つつく。
 周りから、ヒヒヒ、とか、フフフ、とか、小さく堪えた笑い声が、シャーペンが紙の上をすべる渇いた音と共に響いている。

 ハッと目を覚まして顔を上げると、呆れきった教師の顔をした秋芳先生が斜め前方に立って私を見下ろしていた。
 

「ちゃんとしろ」


 険しい顔で私に他人を装って注意してから、先生はテスト監督らしく、険しい眼光を四方八方に向けながら教室中を歩き回っている。

 我に返ってヨダレが丸い染みをつくった藁半紙をめくると、倫理という字が目に入った。
 なんでよりによって倫理のテスト監督が秋芳先生なんだろう。
 突っ伏して寝ていたせいで凝り固まってしまった首を左右にひねってから、手を上げた。


「先生」


 カリカリ鳴り響いていた音が止み、教室中の視線が私に突き刺さる。
 面白おかしくキラキラ光る、ティーンエイジャーたちの視線が。
 先生は相変わらず険しい表情で私を振り返った。


「あの、1問も分からないんで、帰っていいですか?ほかの教科も全部そうなんで」


 水を打ったように静まり返った教室内。
 先生はしばしの間、まっこと呆れ切った表情をプロレスラーのようないかつい顔全体に浮かべたのち、ついに諦めた様子で、


「せめて名前だけは書きなさい」


 と答えた。
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