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泡のように
第31章 30.
 私の名字っていま、山岸なのかな。それとも、鈴木?または、八田?
 考えながら、クラスと。
 ちえこ、とだけ、ひらがなで書いて、藁半紙を机の上に放置して、シャーペンと消しゴムを握り締めて、鞄を手にとって、席を立った。

「マジかよ智恵子」

 教室の一番隅っこで、晴香が目を見開いてブルーのカラコンを困惑に輝かせていた。
 短大受験する彼女の価値観では、私の神経など理解出来るはずもないのだから当然の結果だ。
 しかし、帰宅しようとドアに向かう私のことを面白おかしく見つめるクラスメートの大半数は進路すら決まってない状況だから、その中の誰か1人が、
「じゃあ俺も帰っていい?」
だの、
「ヤッター!私も名前だけ書いとくことにするー」
だの、各々好き勝手なことを言い出し始めたもので、私を廊下に見送った秋芳先生は「おまえらはちゃんと受けろふざけてんじゃねぇ集中しろ!」と声を張り上げてざわつきを制するという、実に混沌とした事態に陥っていた。


 しかしながらお兄ちゃんの実の父親ではないけれど、私が諸悪の根源だというのにも関わらず、私のせいで齎された教室内の混沌にまるで関心を持てず、何も感じないまま廊下の終わりに差し掛かった。

 その時、クラスメートの誰かが、先生に対して不服さを率直に爆発させたのが、自動的に耳に入ってきた。
 発声慣れした野太い声が放つ、必然の音量により。



「はぁ!?ふざけんなよ!俺らにはダメっつうのに、元カノには甘いのかよ!そんなの差別だろ!?おっかしいだろぉ!?」




 と。

 階段を下りている時に、気付いた。
 それが、私に親切にしてくれた、キム君の声だったことに。
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