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泡のように
第31章 30.
 1年生のときに初めて連れ込まれてから、先生の住む日当たりの良い1LDKのアパートの、ひとつしかない大きな窓にかかった生成り色のカーテンが、ずっと好きだった。
 3日に1度先生が自ら洗濯機を回す肌触りのいい、これまた生成り色のベッドシーツも。
 国語科担当の教師らしく、薄い木目調の脚付き本棚にはぎっしり本が並んでいて、それが背の順に並んでいることも、更にタイトルのあいうえお順に並んでいることころも、そう。

 クローゼットの中の衣装ケースの引き出しを開ければ、中にはまるでピルのようにパンツがきちんと畳まれた状態で規則的に並んでいるところも。

 私の下着類をその隣に収納しよう、と決まった際には徐ろにメジャーを取り出して引出し内を計測し尽くした上で無印良品のHPを開き「タテなんセンチ、ヨコなんセンチということは、このPPケースがなんコ入るな、でもそうすると引出しの中が横なんセンチ余るからどうこう」などと呟いて私に頭痛を起こさせたり、そんなところだって。


 それなのに、ちっさいコタツテーブルの上を私がオレンジとかヨーグルトとか納豆とか卵とか醤油とかで汚そうが、シーツにヨダレを垂らそうがセックスの最中に愛液やそれ以外の液体でびしょびしょにしようが、先生はレイナみたいに「汚すな!」とは1度だって言わなかったところや。


 なによりも、たまに、なにげないときに、ふっと私を見て、ニヤッと、いかつい顔をまりもっこりみたいに歪めて、そして私の唇にちゅっとキスをするところが、好きだった。
 
 
 私は、先生のことが大好きだった。
 そして、先生も、私のことが大好きだった。


 これが本当の恋だったなら、私たちは、どれだけ幸せだったのだろうか。

 結末は、お互いがお互いを選んだ時から、恐らく本心の部分でいつかそうなると分かりきっていたはずだったのに、先生を失うことは、やはり恐怖だった。

 あの日ラブホテルでお互いの告白を受け入れたとき、お互いの本心ごと抱擁してしまえばよかった。
 なんて思ったところで、私も先生も、そういう能力がないから、こんなかたちで生きているのだ。
 致し方のないことだろう。
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