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泡のように
第31章 30.
 最後に先生は、いやらしさの欠片もない尋ね方で、一度は両親にまで会わせた地味な女子高生の目を強く見つめてきた。

「ハグさしてもらっていい?」

 と。

 だから、玄関のドアノブにかけていた手をほどいて、先生がするより早く、先生の大きな身体に飛び付いた。
 先生のジャージって、こんなに柔軟剤の匂いがついていたんだ。
 久しぶりに抱き合ってはじめて、知った気がした。

「まぁ、兄貴と仲良くやれよ」

 私から身体を離すとき、先生はそう言って、優しく私のお腹を撫でた。
 私の生理周期を把握していた先生に、今月はまだ生理が来てないと、ポロッと話したからだ。

「もし私がね、テストの時にさ。テスト監督とかでうちのクラスに来たりしたときさ。私が急に帰りますとか言っても、止めないでね。その時は、あー、兄貴のガキを妊娠したんだなーとか思って、バカな女だって笑って、忘れて、そんで、先生。どうか、私レベルで変態な子を捕まえて、今度こそ、幸せになって」

 キスもしない先生に、私はそう述べた。
 先生は笑っていた。

「まぁ相手が見つかればなぁ。そうだ。今度こそ一緒に乱交出来る奴を探すよ」

 なんて、私にふざけつつ。
 だから。

「ねぇ先生、先生が言ってたその筋の趣味を持つ人たちに会って、みんなでシタらよかったね。私ね、色々あって見るとか見られるとか、そういう楽しさみたいなのに興味あるの。経験することはきっと、できないけどね」

 って、自分本位な涙を流してるところを見られたくないがために背を向けて、先生が大きく開け放ってくれている玄関ドアからダンボールを抱えてヨタヨタと廊下に出て歩き始めた。


「それくらいのこと、しとけばよかったね。一緒に」

 
 先生は私の背中に、笑いながら、いまさらおせぇよ。と、言った。
 その低い声が、ほんの少しだけ震えているように聞こえたのは、たぶん、自意識過剰のせいだったのだろう。
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