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泡のように
第32章 31.
 午後9時を過ぎた頃、お兄ちゃんは帰宅した。

「遅かったね」

 暗闇の中布団から顔を出すと、お兄ちゃんは黙って電気の紐を引っ張った。
 灯りに目が眩んで思わず布団を頭から被った。

「ごめん。生徒が悪さして」

 お兄ちゃんの言葉に、下駄箱でたむろしていた金髪の少女たちの姿が浮かんだ。
 彼女らに嫉妬する必要性はないはずなのに。
 どこから発生したのか分からない苛立ちを孕んだ嫉妬心が、口をついて出る。

「妊娠した妹と悪さした生徒、どっちが大事なの?」

 鍵を開ける音がして、すぐに冷たい風が布団越しに私の背中を撫でた。
 窓を開けたんだろう。
 足音は風呂場の方へ消える。

 腹は、なんの痛みも違和感もなく、ただ、私の体幹に存在している。
 泣き出したいくらいの不安を胸の真ん中において。

 
 シャワーから上がったお兄ちゃんは、何の遠慮もなく布団を捲り上げた。
 お兄ちゃんは無表情で、色褪せたトランクスだけ身に付けて、布団の上で丸まっている私を枕元にしゃがみこんで見つめている。
 
「か、確認したいんだけど。本当に俺の、子供だよね?」

 10月の夜風は冷たい。
 窓しめてよ、言ってから、うつぶせに転がった。

「もしお兄ちゃんの子供じゃないって言ったら?」

 その背中に、お兄ちゃんは触れる。

「そうなら、すごく嫌だ」
 
 Tシャツの中に手が滑り込んでくる。

 
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