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泡のように
第33章 32.
 便器を抱えている以外の時間はずっと布団の上で寝転んでゴロゴロ寝返りを打ちながらひたすら苦痛に喘いでいる妊婦相手に欲情するって、どういう思考回路なんだろう。

 今朝も、昨日も、一昨日も、その前の日も、ずっと、そればかり考えていた。

 表面的にはなんの変化もない私の腹。
 けれど確実に変化している私の胎内。
 

「私なら大丈夫だから。ちゃんと赤ちゃんを守るよ。母になったんだから安心して?ほら遅刻するよ。いってらっしゃい、お兄ちゃん」


 相変わらず無表情で陰気なお兄ちゃんの背中を見送ったとき、どろりと胎内から生暖かいものが流れ出した。
 違う理由でまた、トイレに入る。
 トイレットペーパーで拭った精液の匂いは、私が嘔吐くにはもってこいの条件だった。



 妊娠中のセックスは挿入浅めの時間短めのコンドーム必須。
 中出しなんてもってのほか。
 らしいけど、ぜんぜん、守ってない。
 お兄ちゃんは赤ちゃんを守る気など、さらさらないのだろう。
 逆に言えば、知っているのに「やめて」と言えない私も同じことだ。


 レイナはどんな気持ちだったんだろう。
 あの男の子供、つまり、お兄ちゃんを身篭ったとき。
 嬉しかったと言っていたけれど。
 本当に、そう思ったのだろうか。
 日々の暮らしの中で、あの男と暮らして、何を思ったのだろう。
 13歳だったレイナは、何を考えて、日々変化していくからだと付き合っていたのだろう。

 そんなことばかり、考えてしまう。

 私がお兄ちゃんを好きになったりしなければ。
 そのせいで私がお兄ちゃんを縛り付けたりしなければ。
 こんなバカなことで悩む必要もなかったはずなのに。
 わかっているはずなのに。


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