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泡のように
第34章 33.
 レイナは口ごもり、しばらく黙っていた。
 そしてあるときふっと顔を上げ、私の顔を見つめた。


「篤志と智恵子ちゃんにだけは、ふつうの兄妹として育って欲しいって思ってたのに」


 ぜんぜん笑っていないレイナの鳶色の瞳が、私を見つめ続けている。



「どうしてこうなるんだろう。べつに、篤志と智恵子ちゃんがおかしいなんて言ってないのよ?でも、どうして、よりによってわたしの子供たちまで・・・」



 その瞳から涙がこぼれたのは、ドアの向こうであの男の声が聞こえた頃だった。



「ふふ、呼んでるわ」



 レイナは柔らかい手の親指のあたりでメガネを押し上げて涙を拭い、笑顔を繕って見せた。



「あの人ね、わたしが自分より先に起きるのが嫌なのよ」


 ちょっと待っててね。
 と言って立ち上がろうとするレイナの手を掴んだのは、無意識のうちだった。


「なんで?」


 一刻も早くあの男のところへ行こうとするレイナを阻止するかたちで、すべすべした柔らかい手首を掴み続ける。
 私の意図に気付いてくれたレイナはやはり困惑を顔全体に浮かべていた。

「なんでレイナさんはたくさん酷いことされてるのにあの人を許せるんですか?どうしてあの人の子供を2人も生んで、自分だけ苦しい思いして、それでも平気であの人のこと、今みたいに愛してるふうに接することが出来るんですか?あの人はレイナさんのこと愛してなんかないってハッキリ私に言ったのに」

 言ったあとで、私はやはり後悔した。
 
「ごめんね」

 ドアの向こうから、しきりにレイナを呼ぶあの男の声が聞こえる。

「ごめんね。智恵子ちゃん。わたしね、あの人と同じなのよ」

 レイナは涙を何度も拭いながら、私の前で笑顔を取り繕う。

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