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泡のように
第35章 34.
 通話を終えたのち深く溜息をついて黒いシリコンケースをつけたスマホをジャージのポケットに滑り込ませる。
 太い指は後頭部を掻いている。
 視線の矛先はソファが何列も連なるだだっ広い待合室の前方に設置された50インチの液晶テレビ画面に映った“院長からのお知らせ”という短いムービー。
 ざわざわ声の中から聞こえるオルゴールのBGM。
 ふう、と、また溜息をついてから「おっせぇな」と呟いた上で、先生は私の手を握った。

「何時間待たせんだよ」

 土曜日は午前のみの診察。
 しかも完全予約制。
 なのに、予約時刻を1時間も過ぎてもなお診察を受けられないのは、なぜなのか。

「病院変えたほうがいいんじゃねぇか?患者をナメてんだろ完全に」

 周りは妊婦、妊婦、妊婦。
 壁紙はピンク、ピンク、たまに花柄。
 床は白、白、たまに茶色。これは汚れだ。

「ここが一番近いんだから仕方ないじゃん」

 ピンク色のソファに足を投げ出して座るアンブロのジャージ上下姿のプロレスラー男と、その無駄にでかい身体に寄り添うように、というかぐったりもたれ掛かる様なかたちで腰掛けるショートカット頭にすっぴんマスク、Tシャツスキニーそして足元スニーカーの童顔で地味な女。

 どっからどう見たってこのトレンディで人気のある個人経営の産婦人科医院には場違いすぎる2人組に対し、ごく当然といえば当然ではあるが、周りの妊婦とその付き添いの旦那及び子供らから、好奇の眼差しが向けられる。

「一番近いってそれはお前の実家からだろ?これからどうやって通うんだよ。1時間半も掛かったぜ車で」

 妊娠しちゃった中学生の娘と付き添いの父親かな?なんてヒソヒソ声すら聞こえてくる。

「どうやっても何も、これからも先生が車で送ってくれたらいいんじゃないの?」

 親子が手を繋いで診察を待つと思うかクソが。とか脳内ではとんでもない悪態をつきながらも、先生と繋いだ手を無意味におっぱいのあたりにまで持ち上げるという卑劣なかたちで、私は彼らに無言の抵抗を試みた。

「おっせぇな。イライラする」

 学校とアパート以外の場所で先生と2人きりで過ごすのは、ラブホ以来初めてかも知れない。
 そんな事実に気付いたのは、産院に到着し、ホテルのようなエントランスから院内に足を踏み入れた瞬間だった。

「あーもう、ダメだ。ちょっといってくるわ」
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