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泡のように
第35章 34.
 これでよかったんだ。
 と。
 これでよかったのだろうか。

 両極端の想いが胸中で常に揺れている。
 心の中は風なんて吹いてないはずなのに、まるで風になびくように、頼りなく揺れている。
 母の想いと、父の想いと、父になろうとしている男の想い。
 そして「自分にはそんなもの一切無関係ですけど」とでも言いたげに着実に私の腹の中で細胞分裂を続ける命。

 これでよかったんだ。
 と。
 これでよかったのだろうか。

 今の私は、前者が正しいと信じたい。

 でも。
 ならばどうして、揺れる必要があるのだろうか。






 9時の予約から2時間半。
 血液検査とかいろいろあったから仕方ないとは言え。
「順調ですね」の一言を聞くためだけに2時間半も待った内診。
 コンドームを被せた棒を膣の中に突っ込まれてぐりぐりされてまで得られるものは、その言葉だけ。
 でも、小さな身体の中心でピコピコ脈打つ鼓動を白黒のモニターの中で確認したとき、その一瞬だけは心の中の揺れがぴたりと止まったのは、どうしてなんだろう。


「うぉぉ!生きてる!」

 なんて、煙草臭い先生がモニターを見つめて嬉しそうに呟いたからだろうか。
 それとも?

「無事に育ってますよ。ただ体重がかなり減ってきてるから妊娠悪阻にならないよう、安定期に入るまではなるべく安静に。ダンナさん頼りがいありそうだから、思う存分頼って、ネ?」

 などと、14歳の頃からある意味で私の性遍歴すべてを知り尽くした頭の固そうな主治医に思わぬ笑顔を向けられたせいだろうか。
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