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泡のように
第35章 34.
 もし今この瞬間に、私の隣にいたのがお兄ちゃんだったなら。
 主治医は同じ言葉を、私に向けただろうか?

 そんなことをずっと、助手席で考え続けていた。

 午後から先生は部活指導のために出勤した。
 教師に休みはあってないようなものだ。
 国語教師なのにやたら日に焼けてるのもそのせいだ。
 今年のお盆休みなんて1日しかなかった。
 なのにこれからも車で病院まで送ってよなんて、あまりに横暴だっただろうか。
 そもそも、先生の子供ですらないのに。

 
 床の上に放置していたスマホに手を伸ばし、アプリを開く。
 指先が自動的に動く。
 今まで何百何千と先生に打ち続けた文字だから。
 ふきだしの中に表示された私の感情。
「先生本当にありがとう。愛してるよ」
 今だけは嘘偽りのないものだと、自分で自分を信じたかった。
 心は揺れてなんかいないと、思いたかった。

 律儀に返信なんてしないで欲しいと願いながら、吐き気に耐え兼ねてベッドから起き上がる。
 レイナ宅とは比較対象にならないが、それでも清潔の二文字がよく似合うトイレで、やはり胃液と唾液が主成分の嘔吐物を口から便底目掛けて吐き出す。
 全長3センチ程度の命が私の胎内に存在するというだけで、どうしてここまで吐き気が止まらないんだろう。

 そりゃ、堕ろしたくもなるよね。
 欲しくもなかった子供ならごく当然の気持ちだよ。
 そりゃ、私に対してムカツクのも当たり前だよ。
 こんな辛い思いして頑張って産んでくれたのに、育ってみればこんなにバカでさ。
 挙句にお母さんの大事な息子と再婚相手を奪ったんだからさ。
 愛してくれないのとか当たり前。
 むしろ、ここまで育ててくれただけマジで感謝。
 なんてお礼を言えばいいのか検討もつかないレベル。
 なのに親不孝しかしてない。
 本当に、最低な娘。


 はぁはぁと肩で息をして、落ち着いたところで、ようやくレバーに手をかけ水を流す。
 何度も嘔吐を繰り返すせいで水道代もかさんでそうだ。
 地球環境にも私の存在は悪影響を及ぼしている気がする。
 
 そういえば。
 お兄ちゃんは陸上部の顧問だったな、と、再び寝転んだベッドの上で思い出した。

 ラグビーもアメフトも、部員はみな重量級の肉体を所有しているくせに脚が速い。
 走る距離が違うから瞬発力の問題だとお兄ちゃんは言っていたけれど。
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