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泡のように
第37章 36.
 うちに来てもらわなくてよかったの?あんな遠いところからわざわざ私に会うために、大きいお腹揺らして子供たち連れて来てくれたのに。
 って言うつもりが、唇を塞がれたせいで言えなかった。
 というか、私が振り向いてキスをねだったんだせいなんだけれども。



 新しい産院に紹介状片手に初めて訪れた日。
 私の性遍歴を知らない30代前半とみられるアッサリした顔立ちの髪の長い女医は、簡素な診察室の中で、私の質問に対して実に簡素に返答した。


「え?安定期だから全然OKよ。コンドーム装着の上で今しか出来ないプレイを存分に楽しんで」


 と。
 あの産院ほんとに大丈夫なのだろうか、という不安が脳裏を過ぎったのは先生が私の股の中に指を突っ込んだ時だった。



 いつの間にか床の上でダンゴになっていた妊婦用礼服とユニクロのブラトップと妊婦用デカパンツを見つめながら、先生の煙草くさい首筋に腕を回す。


「女のお世辞は怖いね。智恵子はそういうこと言わないタイプの女だって思ってたのにな。リエはどっからどう見たって柔道で言うなれば100キロ超級の女だろ?」


 笑いながら、先生はずんずん指を奥へ奥へ差し込んでいく。
 私の意思とは関係なく、一番奥深い場所へ辿りついたとき、お腹がぴくりと動いた。

「あ、蹴ったよ!」

 胎動を感じるようになってからお腹を蹴られることなんて日常茶飯事なのにわざわざこのタイミングで先生に告げたのは、自分で話を振っておいて何ではあるが、先生の妹の容姿に関するこれ以上の言及を避けたかったせいでもある。

「へぇ?どこらへん?」

 先生は指を動かしながら、もう片方の手でお腹の上を撫でる。
 私とは違い空気を読めるタイプの人間になろうとしているのか、胎児は先生の手のひらのあたりを再び蹴り上げた。

「ほらまた!」

 先生は瞳を輝かせてしばらくのあいだお腹の上に手のひらを当てていたけれど、じきに「俺には全然わかんねーや」と言って、自分も服を脱いだ。
 
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