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泡のように
第37章 36.
「セーターで隠してなんとかする」

 自腹のカフェオレを啜りながら、お母さんを見つめる。
 お母さんはまるでお兄ちゃんの実の父親がウィダーインゼリーを一瞬で吸入したような動きで、あっという間にドーナツ3個を平らげてしまった。そして、

「甘いもののあとはしょっぱいものが食べたくなるわね」

 と呟き、デザートに坦々麺を啜るという暴挙に出た上で、お母さんは私に言った。

「まぁお母さんには知ったこっちゃないから関係ないわ。それより、実は篤志の子供でしたなんてことはないでしょうね?」

 胸がドキンと鳴る。
 さすがお母さん、伊達に18年間私の母親を勤めてきたわけじゃない。
 お母さんは私の反応を見るやオランウータンみたいな大きな目を見開いて「信じられない」と私を罵った。

「ごめん」

 とりあえず謝ったけれど、お母さんは目すら合わせてくれなかった。
 
「謝るなら腹の中の子と、あんたの素敵な旦那様に謝りなさいよ。お母さんに謝られたって、知ったこっちゃないわ。もちろん本当の父親である篤志にもね」

 絶望的な沈黙が母子の間を不穏に包む。
 もう帰ったほうがいいかな、と思っている間にも胎児が私の腹を蹴り上げる。
 胎動なんて向かい側に座るお母さんには伝わるはずはないのに、お母さんはある瞬間突然、

「それにしても篤志ってつくづく可哀想な子だわ。色んな意味で父親って存在から遠くて、そのわりに父親を求められて、父親に縛られてるみたい」

 と、呟いた。
 その大きな瞳には涙は浮かんでいなかった。

「え?」

 聞き返す私の目を、お母さんはやはり見ようとはしない。

「あんた、覚えてるでしょ?あんたが小学生の頃、父親参観の日に、みんなお父さんが来てくれてるのに自分だけお兄ちゃんだったから嫌だったって泣いて騒いで篤志を困らせたの」

 え?
 胎児が腹を蹴り上げた拍子に疑問符が口から飛び出した。

「そんなことあったっけ・・・全然覚えてない」
「フン。あんたは記憶力まで乏しいわけ?嫌になるわ。なんで私にはお父さんがいないのお兄ちゃんだけお父さんを知っててズルイお兄ちゃんが私のお父さんになってよって大騒ぎして聞かなかったじゃない」




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