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泡のように
第37章 36.
 胎児が腹を蹴り続ける。
 同じようにお母さんも話を続ける。

「あんたがそんなこと言う前から篤志は気にしてたのよ。義理の息子である自分ばっかりが健児さんとの思い出を独占してるみたいで申し訳ないって。だから篤志が健児さんにしてもらったことはだいたいあんたにしてあげてたはずよ。高校受験で忙しい時も毎晩あんたに絵本を読んでやって、大学受験で忙しい時も足し算とか引き算とか教えてやって。週末は部活に出かける前毎回必ず行かないで遊んでって泣いて縋るあんたを何分もかけてなだめすかして、疲れてるはずなのに帰ってきたらあんたとみっちし遊んでやって。お母さんも大変だったから仕方ないとは言え、あの子にはあんたのせいで苦労かけたと思ってるわ」

 忘却の彼方から記憶が蘇る。
「行かないで遊んで一緒にいて」って、重そうなスポーツバッグを抱えてドアを開けて出ていこうとするジャージ姿のお兄ちゃんの腰のあたりにいつもしがみついて大泣きしながら縋っていた光景が。

 週末、お母さんは休みのはずなのに、いつも家にいなくて夜遅くまで帰らなかった。
 だから1人きりになるのが怖くて嫌でたまらなくて、お兄ちゃんに行かないでって縋り付いてたんだ。

「そんなこともあったね・・・」

 走馬灯のように記憶が脳内を駆け巡る。
 鉄製のドアがガチャンと重たい音を立てて閉まった瞬間の絶望感。
 薄暗い玄関にひとり取り残された孤独感。
 二段ベッドの下段に寝そべって寂しさを埋めたオナニー。
 ぬいぐるみを隣に座らせて食べる昼食のカップラーメンとおにぎり。
 カーテンの外が暗くなった頃に聞こえる鍵の音と、部屋中にふわっと響くドアの風圧と、お兄ちゃんの声。
 飛び起きて抱き着いて一緒にお風呂に入って、ご飯食べて、遊んでもらって。
 そして。

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