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泡のように
第38章 37.
 俺たぶん異動になるわ。夜間の定時制に。正式な辞令はまだだけど、間違いねぇと思うわ。
 

 先生は廊下に出て行く身体を私に向けて、手を振りながらそう言った。
 7ヶ月のわりに前にせり出しすぎている私の腹のせいでの異動だろうか。
 もしくは、5年も勤続したための異動だろうか。
 どのみち、私も先生も、あのバカで有名な底辺校からこの春オサラバするというワケだ。
 あの高校で私は一体なにを学び、先生は何を失くしたのだろうか。 


 そう言えばお兄ちゃんは新年度からもあの朽ち果てそうな学校で勤続するのだろうか?
 ダウニーの香りがしみついたベビー服をダンボールの中に再びしまい込む。
 生まれてくる子供の瞳は何色だろう。
 何色の髪をしているのだろう。
 どんな顔に、どんな表情を浮かべるのだろう。

 生まれてきた子供を抱き上げたとき、先生はどんな顔をするんだろう。
 どんな表情を浮かべて、どんなことを考えるんだろう。
 どんな気持ちを抱きながら、成長していく子供の傍らで、見つめ続けるのだろう。

 いつか先生とのあいだにも子供をもうける日が来るだろうか。
 いつか先生のことを先生と呼ばなくなる日が来るのだろうか。
 お兄ちゃんのことを篤志と呼び捨てにして、そういう兄貴がいたんだと、他人に話す日が来るだろうか。
 なんの感情もなく私には兄貴がいたんだと、話せる日が来るだろうか。
 不憫でたまらない兄貴がいたんだと。
 不憫でたまらなくて、寂しくてたまらなくて、惨めでたまらなくて、弱くてどうしようもなくて、自分を保つためだけに支配し支配され合う関係だった、兄貴がいたんだと。
 そんな頭のイカレた兄貴がいたんだと。
 そんな頭のイカレた妹だったんだと。
 でもそれでも。
 義理の兄貴と色々あったけど今はモノ凄く優しくて変態だけど頼りがいのある旦那と子供と幸せに暮らしてますと、胸を張って言える日が来るのだろうか。
 そんな日が来るのだろうか。
   

 そんな日がいつか、来ると思う?
 ねぇ。お兄ちゃん。
 お兄ちゃんの未来に、そんなふうに言える日は、来るの?

 お兄ちゃんはこれでよかったと思う?
 ねぇ、これでよかったの?
 お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。

 どうして私はいつまでも、揺れが止まらないんだろう。
 どうして私はいつまで経っても、変われないんだろう。
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