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泡のように
第7章 6.
「教科書に載ってるからでしょ」

 表面では秋芳先生を擁護しつつもお母さんの的確なツッコミに内心笑ってしまった。
 どのツラ下げて江國香織読んでるのか知らないけど私あの先生に抱かれてるの、なんて言ったらお母さんはどうなるだろう。

「ところで智恵子、こんな調子で進路はどうするつもり?」

 再びお母さんを見上げると、お母さんはぐるぐる首を回しながら言った。

「なにかしたいことは?」

 将来の夢。何もないからこの手の質問が一番困る。

「とりあえず就職したい」
「とりあえずって」
「事務か工場なら私にも出来るかなって」
「そう」

 夢が決まらないから短大や大学に進学する、というクラスメートも大勢いるが、私はまっぴらだ。無駄なことに時間と金を遣いたくない。というワケで選択肢は就職しかない。

 その前に進級できるかも分からないが。

「もうすぐ3年なんだから、ちゃんと考えてどうするか決めときなさいよ」
「うん」
「まぁ・・・あんたみたいなバカな子は若くて綺麗なうちにどっかの立派な人にお嫁に貰ってもらうのが一番なんだけどね」

 本来教師、ていうか母親が言うべきでないはずの最低すぎる発言に思わず力が入り、シャー芯がポキリと折れてしまった。

「お嫁って」

 呆気に取られている私にお母さんは悪びれる様子もなく言った。

「だってそうでしょ。子供のお世話や家事するだけの専業主婦があんたみたいなのには向いてるのよ。あんただってお兄ちゃんが出てった頃、お兄ちゃんの身の回りのお世話、ホラ洗濯たたみに行ってあげたりお料理してあげたり、楽しそうによくしてたじゃない。あんな感じでしょ専業主婦って。あんたに向いてるわよ」

 その時台所からおっさんの声がした。お母さんを呼んでいるらしい。
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