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泡のように
第38章 37.
 振り向くと、正面玄関のガラス扉の中で先生が私たちを見ていた。
 正確には先生だけでなく、生徒らも何人かいた。
 最後の最後まで私はセンセーショナルに尽きない女だったようだ。


「お兄ちゃんは本当にそれでいいの?」


 明らかに時間を気にしてそわそわしているお兄ちゃんに、言う。



「本当に、私がいなくなって、やっていけるの?」



 お願いだから本当の気持ちを教えてよと、言う。



「本当に、これでよかったの?」



 正門横の植え込みの中で聳え立つ時計を見上げ、お兄ちゃんは踵を返した。
 正門の外にお兄ちゃんの車が見えた。



「ご、ごめん、もう行かなきゃ」




 大きな身体が私の手を優しくほどき、名残惜しさの欠片もなく、私から離れていく。




 その背中を、泣きながら見送る。
 むかし、練習に行く前のお兄ちゃんに、行かないでと縋ったようなやり方で。
 床の上にしゃがみこんで。
 啜り泣いて。
 行かなきゃ遅刻すると焦るお兄ちゃんを困らせるように。
 大きな背中を。


「大好きだからお願い、置いていかないで・・・・」



 支配するような、やり方で。




 足が止まり、困惑した顔が振り向いて、そしてその動作を見上げる私の目の前まで来て、お兄ちゃんが私の腕を掴む。
 そして、耳元に囁く。



「本当にそうしていいの?」



 と。
 
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