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泡のように
第38章 37.
 そもそもそれは、夏場に放置して腐らせたカレーのようなものだった。
 もともと、腐りきっていたのだ。
 先生やお母さんやレイナやあの男が持っていたようなものでは、なかった。



「先生は優しいよ。こんな私をね、一生懸命愛そうとしてくれるよ。私も先生を愛してるよ。お兄ちゃんなんて嫌いになってさ。お兄ちゃんだってそうでしょ?私のことなんて大嫌いでしょ?でも、でも・・・・」



 いいや?
 もしかしたら、何もかも、白く泡立った、腐りきった、カレーと同じだったのだろうか?




「お兄ちゃんのことをさっき職員室の窓から見たときね、わかったの」



 世間一般の人が指すところの、愛、って、なんなんだろう。



「お兄ちゃんのことを忘れる努力や、精神力が必要なのかも知れない。でもね、そんな次元じゃなくてね」




 私が求める愛って、なんなんだろう。




「お兄ちゃんの姿を見たときにね、わたしね・・・・」





 私はどうなりたいんだろう。





「ひさしぶりに息が出来た気がしたんだよ」





 それは、きっと。
 お兄ちゃんが私に結論を出した時から何も変わっていない。
 そしてこれからも、何も変わらない。
 腐りきったカレーをいつまでも煮詰めても食べられないのと同じことで。
 いつまでも白い泡が表面に浮いていて。






「今までだってずっとそうだった。先生と一緒にいると幸せな気持ちになるんだよ。先生は私を助けてくれたんだから。苦しみに溺れていた私を助けてくれたんだから。1年生の時からずっとそうしてくれてたんだから。でもね・・・」






 ぷくーって膨らんで。






「どうして、今まで何度も気付くチャンスがあったのに気付かなかったんだろう。どうして先生に迷惑ばかりかけちゃうんだろう。私ね」







 今にもはじけそうなくらい膨らんで。
 破裂しそうなくらい膨らんで。
 そんな気持ちで正面玄関の扉の中にいる先生を見つめて。






「先生のことは大好きだけどね。苦しいくらい大好きでたまらないけどね。お兄ちゃんのことはね、好きとかそういう次元じゃなくてね、空気みたいにね、生きる上でどうしても必要なんだって、気付いたの」






 心の中でまた、ごめんねって言って。



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