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泡のように
第10章 9.
 それから何度かメンバーたちが思い思いの「智恵子に似合いそうな服」を選んで持ってきてくれたが、彼女たちの買い物が終わる気配はない。ため息を吐きつつ、鞄の中から先ほど上階の大型書店で購入した沖縄のガイドブックを紙袋から取り出した。冷静に考えたら修学旅行なんだから行き先やプランは全部組まれていて自由時間はないのに、ガイドブックなんて必要だったんだろうか?1200円、無駄金だったかも。考えたら見るのも嫌になってガイドブックを再び紙袋に押し込み、鞄の中に突っ込んだ。


 エスカレーターを行き交う人々の中に、ニョキッとデカイ鳶色の髪色を見付けたとき、私はお兄ちゃん恋しいあまりお兄ちゃんの生霊か何かを呼び寄せてしまったのかと思った。
 ここはティーンエイジャー或いは若さを捨てきれない主婦で賑わうキャピキャピした雰囲気のオシャンティなショッピングモール内だ。
 警備員に見つかったら職質されそうなレベルの陰気な顔でエスカレーターに乗る姿はとてもじゃないが中学校教諭ですと言っても信用してもらえないだろうと断言出来るレベルで怪しかった。
 だって、生霊でなく本物だと確信したお兄ちゃんの姿は、寝るときとまるで同じ服装だったんだから。

 どんなんかって?
 色褪せた黒いパツンパツンのTシャツに、赤いハーフパンツ。
 そして手にはボロボロのビニール傘。
 もちろん分厚い胸板に張り付いたTシャツ表面にはポチポチッと乳首が浮いている有り様。

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