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泡のように
第11章 10.
 吸殻をひとつずつつまみながら、先生は唖然とする私に言った。

「まだわかんねぇか?なんていうか・・・お前を社会に出して苦労させるより、俺が養ってやったほうが効率的かなと思っただけだよ。お前が現代文で再々追試になった時にさ」

 アルミ製の灰皿にひとつ、またひとつフィルターぎりぎりまで吸った煙草の残骸が集められていく。

「別に、嫌ならいいよ。前みたいに薬、飲み続ければいい。俺はどっちでもいいんだぜ。結婚はいっぺん経験したから。強いてしたいとも思わねぇし。ただ、今みたいに暮らせたら幸せだなって思っただけでさ」

 たぶん私はいまとんでもなく阿呆みたいな顔をしているだろう。
 どこから聞き返せばいいのか分からなかった。

「結婚経験したって・・・別れたってこと?」

 やっと喉から声が出たとき、シーツの上に散らばった吸殻はすべて灰皿の中に片付いて元通りになっていた。
 先生が掛け布団をはたき、拾いきれなかった灰カスを床に落としている。

「ああ、浮気されて別れた。5年前になるかな。俺、別にロリコンってワケじゃないんだぜ。前の嫁は年上だったしな。俺と同じ高校教員で、今は工業高校に勤めてるよ。浮気相手とケッコンしたって聞いた。ガキもいるって」
「え、あ、愛莉さんは?」
「あいつは前の嫁と別れてから出会って・・・ほら、サイトみたいなのあるだろ。今だから言えるけど、援交みたいなもんだったよ。本当に愛莉って名前だったのかも分かんねぇしさ」
「サイト、援助交際・・・・」
「なんかなぁ、前の嫁と付き合いが長かったからかな。別れてからどうも、大人の女がダメになってよ。ガキなら大丈夫かなっていう、変な安心感っていうか」

 クロス張りの床の上に灰が舞い散る。
 江國香織読んじゃうバージョンの先生、今初めて納得。
 人生って色々だ。

「わたし全然知らなかった」

 言ってから発言の馬鹿らしさに気付く。
 そりゃあ今初めて先生は私に話したんだから当たり前だ。
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