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泡のように
第12章 11.
「あ・・・そ、そうか、彼氏、が、迎えに?」

 黙って首を左右に振る。しつこい振動の元を取り出し、「もしもし」と耳元に当てた。
 お兄ちゃんは黙って私の通話風景を見つめている。電話口の向こうからはやっぱり先生の声がした。

(繋がらないから心配したぞ。お袋さんどうだった?まだ病院か?)
「ごめんなさい。思ったよりピンピンしてた。さっき帰ってきたとこ」
(そうか。兄貴と会ったか?)

 チラリとお兄ちゃんを見上げる。お兄ちゃんはなぜか後退りした。

「いま一緒にいるの」

 告げると先生は一瞬の間を置いて、あぁ、って笑いを含んだ声を上げた。

(そうか、悪い悪い。邪魔したな。兄貴によろしく伝えてくれよ。じゃあな)
「うん。おやすみ」

 終話ボタンを押し、カバンの中に放り込む。訝しげに私を見つめ続けるお兄ちゃんに言った。

「彼氏が、お兄ちゃんによろしくって」
「えっ、ああ、う、うん・・・?」

 立ち上がり、さも当然のようにお兄ちゃんの横をすり抜けてお兄ちゃんのウチに上がった。

「お、おい、智恵子、」

 靴を脱ぎ、インフルエンザで隔離されて以来になるお兄ちゃんの部屋に足を踏み入れる。懐かしい、お兄ちゃんの匂いがした。

「なな、な、なにしてんだよ、智恵子はちゃんとウチに」

 焦った声を背後に、摺りガラスの引き戸を開ける。途端に涼しい空気が全身を包み、同時に目を覆いたくなるような乱雑に散らかった台所が視界に入った。

「相変わらず汚いね。変なとこお母さんの性格そっくり」

 振り向かないまま更に奥の和室に入る。敷きっぱなしの布団が中央に、押し入れの前にはローデスクの上に設置されたデスクトップ型パソコンがある。あとは乱雑に積み重なった本の山。そして。

 お兄ちゃんに奪われる前に、手にとった。

「これ懐かしいね」

 テレビの前に飾ってあった、白い陶器のフレームに収まった、お兄ちゃんと私の写真。

 私はお兄ちゃんの首筋に腕を回して、頬にキスをしている。
 お兄ちゃんはくすぐったそうな顔で笑っている。

 首までしか写っていないけれど、本当は二人とも裸だった。
 別れるちょっと前に撮った、唯一の、二人の写真。
 キョウダイって関係じゃない、二人の写真。
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