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泡のように
第14章 13.
「なんていうか、いろいろと、すみません」

 先に口を開いたのは先生のほうだった。

「ほんと、なんていうのか、申し訳なく思ってます、色々と」

 空気的に謝るしかないと思ったのか、先生は何度も頭を下げていた。

「でも、こんなとこで言うのもなんですが、智恵子さんとは真剣におつきあいさせていただいておりまして、その」
「妹から聞いてます。出来の悪い妹なのに、聞いたところでは嫁にもらっていただけるそうで。死んだ父も喜びます」

 頭を下げる先生に、お兄ちゃんは試合前のアメフト選手のような、緊張しているようで、それでいてだらんとリラックスした立ち姿で答え、そして陰気な笑顔を見せた。

「母も喜びます。早く孫が欲しいって言ってますから。祖父も、そうですね。智恵子の担任だったと聞けば眉をひそめるとは思いますが、昔から智恵子の行く末を案じてましたから、きっと、大丈夫かと思います。祖母に関しては祖父の言いなりなので構わないでしょう。叔父叔母もそうです。あなた、どうやらとても立派な方のようですから」

 お兄ちゃんが皮肉を述べていると気付いたのはこの瞬間だった。
 しかし時すでに遅し。
 お兄ちゃんの中ではすでにキックオフしていたらしく、話すのをやめなかった。

「甲斐性があるようで、羨ましい限りです。あんな車、雑誌の中でしか見たことありませんでしたから驚きました。智恵子はこんな子ですから、養ってあげてください」

 そういえばお兄ちゃんのポジションはオフェンスラインのタックルだったなぁと思いながら、その重量級の身体とは相反して、闘志に満ちているけれども目立たない地味な存在を、呆然と見上げるしかなかった。

「智恵子はいい子ですよ。ちょっと頭は悪いけど、いい子です。ほんとに。なんて、僕なんかが言わなくてもご存じですよね。とっくに。1年生の時から付き合ってるって聞きました。そりゃ、それだけ付き合っていたら、いろいろご存知でしょう。足の付け根にほくろがあるとか、そういうことだって、とっくに」

 先生は再び、どうしたらいいのか、という顔で私を見た。
 でもやっぱり、私にはどうしたらいいのか分からなかった。

 沈黙が続く。
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