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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤
そう言えば夜光様は今どうしているのだろう?
彼はいつも朝が早いから、誉はひとりで朝を迎える。
朝餉の前に誉が具合を悪くしてから、架音が炎鬼兄さんを連れて来たのもあっという間のことだったから、思えば今日は一度も顔を合わせていない。
出張の話は聞いていないから、同じ屋敷に居ることは分かっている。
それに、風邪を移したくないから、顔を合わせない方が良いに越したことはないのだろう。
けれど……
『……』
誉はもそりと起き上って、ぼーっとした意識で考える。
(会いたい……)
風邪で体だけでなく、心も弱っているのだろうか?
炎鬼兄さんも来てくれて嬉しいこと限りないのに、何だか……どこか、寂しい。
彼の姿を少しでも見て安心したい、そんな気持ちが心のどこかでもやもや立ち上がっている。
こんなこと、彼が知ったらどんな顔をするだろう。
病人相手に鬱陶しそうな表情をされるだろうか?それとも、労わって頭を……撫でてくださるのだろうか?
(会いたいな……)
ちょっとだけ、ちょっとだけなら。
遠くから彼の姿を目に映すだけでも良いから。
そう誉がよろりと布団から出て、襖に手をかけたその刹那ーーーー
すっと突然目の前が開けた。
『へ……』
「……病人のくせしてどこに行くつもりだ?大人しく寝ることもできないのか、誉」
呆ける彼女の頭に降ってくるのは、彼、夜光の声だった。
誉は顔を上げると、いつも通りの冷ややかに見下ろすその瞳と視線を交えて、顔を下し、よろよろと布団へ戻る。
そんな誉の様子を無表情で観察していた夜光は、タンと襖を閉めて、布団の隣に胡坐をかいた。
『……』
「……」
誉はじっと天井を見つめているし、夜光もじっと窓の外を見つめている。
部屋には沈黙が流れているが、苦では無かった。
そもそも彼はあまり喋らない方なので、誉にとっては何ともない。