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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤


「……おい」


沈黙を破ったのは夜光の方だった。


『……はい』


鼓動がトクンと跳ねる。

誉がちょっとだけ頭をずらして夜光と向き合うと、氷枕のひんやりした感覚が、頬の熱を冷ましていった。

彼はいつもと同じ、無表情のままだ。
誉はそんな夜光が口を開くのを、心のどこかで何かを期待しながら待つ。


「…………これから出かけてくる」

『え……』


ポツリと呟かれた言葉。
それだけ?と一瞬思って、拍子抜けしてしまった自分を、誉はどうしていいか分からなかった。

風邪を引いてしまったのは自分の自己管理が怠らないせいだ。自業自得というのも仕方がない。

だけど、もう少し自分の身を案じてくれてもいいのでは?
具合は大丈夫なのか、だとかちょっとした言葉ぐらいかけてくれても……

甘いことだし、我儘かもしれないけど、本当はそう思っていた。
胸の中がざわざわし出すのを誉はグッと抑えて、彼に微笑みかける。


『御仕事ですか?』

「いや……別に仕事じゃねぇが……出かけてくる」

『そう、ですか……』


言葉を濁らせる彼にまた胸がもやもやする。

仕事ではないのなら、一体何なのですか?
どうしてはっきりと仰ってくれないのですか?

誉は彼に色々聞きたい気持ちになったが、ここもやはり抑えて、


『……分かりました。気を付けて……』


極力笑って頷いた。


「……あぁ」

『……』


短い返事。
赤い瞳もあまり私を映してくれずに、部屋のどこかに向いている。

やっぱり風邪で体だけじゃなく心も弱っているのか、何だか彼の言動が全て素っ気なく見えてきて、誉は何だか悲しくなった。


『すみませんが、私は……寝ていますね。風邪なので……』


寝返りを打って、夜光に背を向ける。
ちょっと喉が熱くなって痛いし、声が震えそうになったので、誉はそれっきり何も言わない。



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