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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤

一面の玉砂利に映る女の影を見た時、誉にはなんとなく嫌な予感がした。

仕事ではない外出……
何をしに行くと、ハッキリ言わない彼……


(もしかして……)


心の中のもやもやが、一瞬“浮気”という形を作って、また消える。


(いやいや、そんな……)


だとしたら、わざわざ屋敷まで女を呼んでくるだろうか?そんなのわざと公開しているのも同然だ。


それとも、私が厚かましいのだろうか?
もしかしたら夜光様にはあまたの恋人がいて、私はそのひとりに過ぎないのだろうか?

だから、お構い無しに屋敷に呼ぶことも当たり前だと思えと言うのか?


『……』


ーーー私は一体彼の何?

女の影を見ただけでこんなにも想像豊かな自分に、誉は驚いた。

けれど、このことはずっと気がかりだったことでもある。

ーーー夜光様にとって私は何?


「おーい、誉、何して……」


ぐるぐる考えを巡らしていた誉の背後に、声がかかる。

驚いて誉はビクッと肩を震わせた。
振り向くと土鍋を抱えた炎鬼が立っている。


『しー……!』


誉は人差し指を口の前に持ってきて、“静かに”と彼に伝えてから、こちらに来てと手招きした。


「?」


なんだなんだと、土鍋を置いて炎鬼も窓へ近づいて、誉と一緒に戸の隙間を覗く。

少し離れた玄関の前に立つ夜光。
女の影が動いて、姿を表した。


『』


誉は一瞬、息をするのを忘れる。

美しい。

腰まで流れる黒髪は、まさに“みどりの黒髪”と形容するのが相応しいほど、つやつやとしている。

少し病的にも感じる白い肌は透き通るようで、黒髪と彼女の赤い着物によく映えている。

まるでお菊人形みたいだと誉は思った。
そして、儚い。

触れてしまえば雪のように溶けてしまうのではないかと思う。

彼女が取り巻く空気が違うのを、誉は遠くからでも感じた。

そして何より……

夜光を見つめる瞳。
美しい曲線の目元にはめ込まれた、ビー玉のように丸い瞳。

その色は、彼と同じ赤。

赤かったのだ。
お互いの赤い瞳が、今、交わっていた。


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