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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤

でも、懐かしい味だ。
心がぬるま湯に浸かった気がして、今の誉には、その味が何よりもありがたく感じた。

誉はぼんやりと一点を見つめながら、口を開けては粥を入れ、もごもごと口を動かし、また口を開くのを繰り返す。

玉砂利の音が微かに耳に触れた気がした……


ーーーーーー


午後になってからーー夜光とその謎の女が屋敷を出てからーー落ち着き始めていた誉の具合はぶり返してしまった。

微熱が熱に変わり、頭痛がするらしく、寝ようと思っても寝つきが悪くてどうにも眠れないと言う。


『……』


誉は枕に顔を埋めて気だるげな様子でいる。
気だるげなのは、きっと体だけではないだろう……
炎鬼には今の誉が、何か悲しいことがあって塞ぎ込んでいる子供のようにも見える。

その原因はふたりとも分かり切っている。
炎鬼は、今は風邪を治すことを最優先に考えて、なるべくその話には触れないように努めた。

時間が経ったので、氷枕を変えに襖を開ける。


「誉、汗を掻いただろう?冷たい水と手拭いを変えてきたから、これで体を拭けばいい」


返事のない彼女をそっと覗いてみても、垂れた髪の毛で表情は見えない。


「……誉」


ゆっくりとその髪を指ですくって耳にかけると、誉はピクッと震えて、ようやくこちらへ顔を向けた。

炎鬼はまた胸を締め付けられる思いがした。
目元が赤みを帯びているのは熱のせいじゃない、長い睫毛は濡れているし、涙の跡だって枕に残っている。

そのくせ、唇をきゅっと引き結んで、感情を出させまいと我慢しているのだ。
今のお前の心の中は、どれほど辛いのだろう。

そんなにあの男が好きなのか?
こうなることが起きるかもしれないと、分かっていたのに、お前はどうしてあの男に付いていったんだ……

炎鬼は胸の内をなんとか表に出さないようにして、笑みを作った。
やはり俺が守ってやらねばいけない……


『兄さん、ありがとう』


掠れ声の誉はむくりと起き上がり、差し出された手ぬぐいを受け取った。



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