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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤


「……よし、できた。さぁ体を冷やさないように新しい替えの着物を着換えろ。今着ているものは洗っておくから部屋の外に置いてくれ。それと喉が乾いたらぬるいけどレモン水があるから飲むこと。あとはゆっくりと休め、いいな?」


『はい、分かりました』


誉は首をコクコク縦に動かして、炎鬼の話を聞いていた。

トン、と襖が静かに閉められて、またひとりになる。少し肌寒く感じてきたので、替えの着物に腕を通した。

誉は汗でなんとなく湿った服を畳んで、部屋の外へ置くと、布団のそばにあるレモン水を少し口に含んで、それから、布団のなかに戻った。

休みたいけど、休むことができない。
脳裏にべっとり張り付いたあの光景が、自分の意思とは関係なしによみがえるのだから。

あの方は誰なのだろう?
夜光様とは…やっぱり、恋人のような関係なのだろうか?


『……』


誰かに聞いてみたらどうだろう?
架音様は何か知っているだろうか?

聞いてみたいが答えを知るのが怖い。自分はこんなに怖がりだったのかと思うくらいに怖い。
結局誉は、自分は勇気がなくて何も聞けないのだろうと自分に対して落胆する。

そんな一連のことを考えるのを、繰り返してばかり。

私がこんなだから、炎鬼兄さんをさらに心配させていることも分かっている。

胸が苦しい、本当に、どうしたらいいのだろう……

誉は訝しげに目を細めて、天井を睨んだ。
また、泣きそうだ。


ーーーーーーー


「違う……そんなんじゃない……俺は……違う、違う……」


一方、炎鬼はその頃、台所でブツブツと何かを呟きながら林檎を擦っていた。
虚ろな瞳で、ひたすらに林檎を擦り機に擦り付ける。何個も何個も……

気づけば大きな桶一杯分の擦り林檎が完成していた。


「おいおい、いくつ林檎を擦るつもりなんだい?全く……誉もあんたも、どうかしたのかい?」


台所の戸口、その柱に背をもたれて彼の様子を見ていた架音は、呆れたようにため息を吐いた。


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