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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤
「……俺も風邪が移ったのかもしれない」
炎鬼は後ろを振り返らない。
呟きながら、随分と多くできてしまったすりりんごを見つめる。
頭の片隅では、すりりんごの残りは変色する前に煮てジャムにしてしまおうと思っている。
だけど、頭の中を大半に占めているものは別で。
「あんたもかい?季節の変わり目だからかねぇ。そりゃあ、あやかしだって風邪も引くわけだから、あたしも夜光様も気を付けないと」
「……」
炎鬼は夜光の名を聞くと、始めて後ろを振り返った。
「何だい、そんなに怖い顔して」
その真剣な面持ちは、一見睨んでいるようにも見える。
架音はきょとんとした顔をして柱に預けていた身をは離した。
「あの男……どういうつもりだ?今日は女と出掛けているみたいだが。誉は動揺してる」
「あぁ」
「どうなんだ」
答えを急かす炎鬼に、架音は宙を見つめてなにやら考え込んでいる。
なかなか話さない彼女に、炎鬼はじりじりした。
やがて出た答えは
「……あたしにもよく分からないねぇ。それは誉が夜光様に直接聞いてみた方が良いんじゃないかい?難しいことかもしれないけどさ」
なんとも曖昧なものだった。
何の情報も掴めない炎鬼は内心ガックリして、不満げに言い返す。
「そんなことさせられるわけがないだろう!誉がもっと傷付くかもしれないんだぞ!それにお前、何故そんなに笑ってるんだ!?」
口元に微笑を浮かべる架音に、炎鬼はガミガミ突っかかる。
架音はそんな彼に臆することなく、腕を組んでまたにまにまと笑っていた。
「まぁまぁ、誉が成長する良い機会じゃないか」
「何の成長になるっていうんだ!?」
「そりゃあ、恋さ」
ぷか~っと煙管を吹かし始める架音。
「こ……!」
炎鬼のそばへ近寄った架音の吐いた煙は、ゆらゆらと炎鬼の目先で揺れる。
「自分の気持ちに気付くんじゃないかい?あの子、未だに自分の気持ちを整理しきれてないみたいじゃないか」
ね?と横目で彼を見る架音はとても楽しげ。