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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤
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熱に邪魔されながらも、何だかんだでいつの間にか眠っていた。
誉は、夢を見ていた。
辺りは真っ赤だ。
それは夕日の赤なのか、紅葉の赤なのか、炎の赤なのか、血の赤なのか、よく分からないけど、真っ赤だった。
目がちかちかしておかしくなるような、一面の赤い世界の中で、誉は立っていた。
背中がずきずきと鈍痛を訴えている。
どうして痛いのだろう?
誉にはよく分からない。
「あ」
少し歩いてみると、遠くに人影が見えた。
男のような……女のような……
老人のような……子供のような……
なんにでも見えてしまうその影を、誉は恐ろしいとは思わない。
むしろ、懐かしく感じる。
ーーーあなたは誰ですか?そちらへ行ってもいいですか?
手で口を囲って大きく叫ぶと、人影はくるりと背を向けて歩いていく。
ーーー待ってください!
付いてこい、と言っているのか……
それとも、来るなと言っているのか……
どちらかは分からないけれど、誉は慌てて駆け出した。
ーーー行かないで!
人影にはいくら走っても追い付かない。
やがてそれはかげろうのように、ゆらゆら揺れて、分散して、赤と混ざっていく。
誉はそれが消えてしまったら、二度と現れないような気がした。
ーーーひとりにしないで!
、
消える。
掠れた悲痛な叫び声は届かなかった。
「……っ!」
誉はバチっと瞼を開ける。
突然現れたぼわりとした視界は、徐々に黒いもやが取れて鮮明になった。
ーー夢……
久しぶりに、あの夢を見た。
幼い頃からずっと見続けている夢だ。
しかし誉にとってそれは悪夢、というような印象はない。
けど、どこか不気味で寂しい夢。
「ん……」
午前よりはいくらかマシになった重い頭を起こして、誉は体が汗だくになっていることに気付く。
残暑と熱で身体中から吹き出た汗は、また服と布団を湿らせていた。
暑苦しくて、誉は衣を緩くする。
風を入れようと窓を開けると、オレンジ色の外の景色から夕方になったことを知る。
結構眠っていたようだ。
ふわりと頬を撫でていく涼しい風を感じていると、
玉砂利の音がした。