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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤


汗を拭き終える頃、一糸纏わぬ誉は拘束されたまま、ぎゅっと唇を引き結んで夜光を見上げた。

キッと睨んでくる誉に、夜光はまた眉をやや寄せる。


「何だ……また反抗的な目で見て。気に入らねぇことがあるならさっさと言え」


『あ……あの方は、どちら様ですか?』


誉は振り絞るようにして、なんとか声を出した。


「あ?」

『あの方と……どこへ出掛けていたのですか?何を……してらっしゃったのですか?』

「……」


やっとの思いで尋ねてみても、夜光は不機嫌そうな表情を変えない。

こちらを見ているだけだ。

焦る様子も、狼狽える様子も見せないし、なかなか……答えてくれない。

どうして答えてくれないのですか!
誉はぎゅっと胸が押しつぶれそうに痛かった。

ぶわりと涙が溢れて、視界が滲む。
目の前の夜光がぼやける。


『ぅ、ん……っ』


駄目、泣いてしまう。


「……誉……?」


夜光は虚を突かれたみたいに、珍しく呆けたような表情を見せた。


『私は……一体夜光様の、何なのですか……!』


誉にしては声が大きく、荒い。

やっと出すことができた、ずっと心の中にあったもやもやとした疑問。

そうして、ぽろりと、誉の瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。


「お前はーーー……」


ーーーーー


「妹!?」


炎鬼しては声が大きく、荒い。

そしてポカンと口を開けたまま、向かい合った机に座る女を見つめた。

女は表情を変えずこちらをじっと見つめたまま、静かにコクリと頷く。


「そうさ。紹介が遅れたけど、このお方は主、夜光様の妹の夜那(よな)様。二卵性の双子なんだ」

「ふ、双子……」


た、確かに……
よくよく見れば、ふたりの瞳は同じ赤。顔立ちも、お互いに面影がないことはない……

と、納得しかけたが、炎鬼はまだ疑心暗鬼だった。

窓から見てしまった光景ーー口付け。
ふたりが出かける前、玄関でしていたことはどう説明する?

もやもやと胸に止めておきながら、とりあえず炎鬼は自己紹介をすることにした。


「……炎鬼だ。誉……夜光の妻の兄。そうなると、俺とその夜那殿は親戚関係になるということか」


まだ警戒が解けないために、炎鬼はあくまで社交辞令、というような、勤務中や外向けの時に使うような笑顔を浮かべた。


「ん……炎鬼様。……よろしくね……」


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