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藍城家の日常
第5章 謎の黒兎の瞳も赤
『夜光様はいつも素敵ですよ』
誉は至極真面目に答える。
「あぁ、そう……」
夜光は困ったような、うんざりしたような、呆れような、照れているような表情をしている。
次第に笑みを浮かべ始める誉を、見下ろしながら。
「誉……急に機嫌が良いな」
『……嫉妬する方はいい気分ではありませんが、嫉妬される方は嬉しくてたまりませんね。……そうでしょう?』
嫉妬は愛の裏返し?
自分は、愛されている……少なくとも気にかけてくれているのだと、分かるから。
こんな気持ちになるのも、初めて……
「そうだな……悪くねぇ」
ふにゃふにゃ微笑む誉に、夜光はふっと笑った。
彼は口付け等していなかった。
垂れた彼の髪の毛で見えなかったのを、口付けをしたのだと勝手に想像したのは私。
あぁ、
私は本当に馬鹿な事を考えて、ひとりぐずぐずと嘆いていたのだ。
夜光様を疑ってしまった。
誉は彼に対してとても申し訳ないと感じた。
しゃんと背筋を伸ばして、誉は両手で夜光の顔を包むように添える。
『夜光様、疑ってごめんなさい。本当に、ごめんなさい……どうか、許して……くれませんか……』
「……」
きゅんきゅんと許しを請う子犬だ、と夜光は思った。
誰が許すか。
その無垢な眼差しを見て、虐めたい衝動に駆られる。
しかし今は風邪っぴき状態なため、安静にしなければいけない……
「……今は多目に見てやる」
今は。夜光は静かに目を閉じて欲情をぐっと我慢する。
それから、口付けを……
『あ!』
ぐいーっ
誉は両手を夜光の顎に当てて、自分から遠ざけた。
「おい……何する」
『今は風邪が移ってしまうので、駄目です……』
「……チッ」
……口付けも駄目か。
『風邪が治ったら……あの、い、いくらでも……』
誉はもじもじと恥ずかしそうに、誉にしては大胆な事を蚊の鳴くような小さな声で呟く。
それが逆効果だとも知らずに。
夜光は溜め息を吐きたくなった。
「……言ったな」
今の言葉、しっかと聞いたからな……
夜光の瞳が妖しく光った。
誉が夜光のお仕置きを含めた責めに、ひんひん泣くのはその後の話。