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藍城家の日常
第6章 我妻のこと
爺……早くしてくれ……
くだらない会話に時間を掛けていることに不満が募るが、我慢してもう少し待ってみることにする。
「……む?確か……お前の屋敷に居る者もここで宮仕えをしていたか?」
「それは……誉のことでしょうか?」
……
……誉……
……大層な名の女だな……
「最近虹覇が懐いている気がする」
「左様ですか……ええ、彼女はここへ下女として来させています。私の屋敷の方でも年長なので、良く働いてくれています」
「ふうむ、そうか……他の国や宮中から縁談を持ち込むのも良いが、お前の性には合わんだろうしなぁ……それなら、その娘を娶ってはどうだ?」
「は、」
「その娘を、お前の妻にしてしまえば良い」
「彼女は、妹です、が……」
炎鬼のきびきびとした声が、揺らぐ。少し動揺していることがすぐに分かる。
「血は繋がってはいなのだろう?たとえ血が繋がっていたとしても、身内で契りを結ぶのはこの世界では禁じられていることではない。屋敷のことも良く分かっているのだし、最適ではないか」
そう……この神楽の国では血縁者通しが婚姻するのも普通なのである。
たとえ兄妹でも……
「……あぁ、それとも……もう彼女にはどこかへ嫁がせる予定があるのか」
「いえ……それは……」
「では、彼女には既に心に決めた相手が居るのか?」
「……」
どういうわけか、それきり、炎鬼は口を噤んでしまったようだ。彼の声は聞こえてこなかった。
やがて結羅はギッと椅子を鳴らして
「……まぁ、考えてみれば良い」
と中途半端にお節介を投げ出す。
それから少し経って、帝の書斎から神妙な顔をしている炎鬼が出てきた。
扉を開けてから、正面に立っていた俺と目が合った刹那、固まるもすぐに形だけの会釈を交わす。
顔には出さないが、相手は先程の話を聞かれて少しは気まずかろう……
「帝はしばし席を立たれます。もう少しお待ちを……」
炎鬼は厳粛な態度、厳粛な声でそう言い放って廊下を後にした。
俺はその後姿を横目で見送り、また視線を前に戻す。
爺……いつまで待たせるつもりだ……
俺は小さく舌打ちをした。