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藍城家の日常
第6章 我妻のこと

……

……遅ぇ

爺は一向に戻ってくる様子がない。
暇を持て余しているうちに、イライラは募っていくばかり。
たかが報告で、何故こんなに待たなけれないけないのかーーー

待たされるのは、苦手だ。

はぁ、と小さく溜め息を付いたちょうどその頃、階段をよろよろと上がってくる危なっかしい影が見えた。

よく見れば畳んだ衣類を運ぶ下女のようである。

滑りやすそうな廊下の床……
衣類の山を抱えちょこちょこと歩く女……

嫌な予感がしたが、知れたことかと俺はゆっくりと目を瞑ってやり過ごすことにした。

が……


ずるっ


『あっ!』


ゴッ

ふわりと弾んだ女の声。
案の定下女は目の前で足を滑らせ、衣やら布やらを廊下の床にぶちまけた。


「……」


……何なんだ……
俺は呆れながらうっすらと目を開け、己の足のそばにひらりと降ってきた布を見つめた。
それから、視界の中で動く影に視線を移す。

下女は頭を打ったらしく痛みに顔を歪ませていたが、すぐに状況を見て青ざめ、散った色とりどりの布を拾い集める。

その後姿はしゅんとしている。凹んでいる。

……分かりやすい女……


「……おい」

『あ』


気まぐれに手を差し出すと彼女はその手をじっと見つめ、恐る恐る顔を上げた。


『……っ』


その時の表情と言ったらーーー
蛇に睨まれた蛙……とは少し違うとは思うが概ねそんな感じで、体をすっかり固まらせて、まるで魔法にかかったかのようにこちらをぼんやりと見つめていた。

……俺の瞳を見ているのか
女の大きな瞳は翡翠をそのまま埋め込んだような、瑞々しい若草の色。
ビー玉のようなその中に、自分の姿が映っている。

俺はひとつ瞬きをした。
それから彼女の頬は、次第にほのかな桃色を帯びていく。物欲しそうな顔を、する。

やはり、分かりやすい……


「……おい、女」


……さっさと立て……
俺の声に女はハッとして小さな白い手を差し出した手に重ねた。
俺は力任せに彼女を立たせる。

……軽いな……


「……」


俺はまた気まぐれに、己の足にそばに落ちていた布を拾って差し出したーーー



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