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藍城家の日常
第6章 我妻のこと
……
正式な婚姻を交わしてから、特に大きく変わったことはないと思う。
ただ、最近の誉の頑張りは俺の椎茸嫌いを克服させようとすることに尽力している。
曰く、『料理の面で、夫の苦手なものを克服させるのも妻の務め』らしい。
椎茸を細かく刻んでさりげなく料理の中に混入させたり
プラプラ……
ーーー夜光様は椎茸が食べたくなるーーー
懐中時計を使う効くわけがない例の催眠術をかけに来たりする。
……いじらしい。
本当は椎茸などとうに克服している。誉が食べろと言ったら、食べる。
面白いので、いまだに克服できていない振りをしているだけだ。
「……椎茸は、努力、する……」
真剣な顔の誉から俺は顔を反らして小さく呟いた。
『一緒に頑張りましょうね!今、椎茸をいかにして美味しく料理するかを架音様と炎鬼様と私のさんにんで研究しているんです。椎茸と仲良くなる日もそう遠くありませんよ!』
誉は両腕を振って張り切る仕草をする。対して夜光は冷たい無表情を崩さない。
別に、あの男の名前なんて聞きたくはないのだ。この部屋では特に……
「そうじゃねぇ……」
俺が今聞きたいのは、そう言うことではなくて。
聞きたいのは……
『あ!』
夜光は誉を抱きかかえて、四畳半の襖を開けた。
一枚の布団にゆっくりと誉を下して、彼女の上に覆いかぶさる。
大袈裟だと笑われるかもしれないが、たまに潰してしまいそうで怖くなる時がある。
誉はもろい。
神楽の国の世界の女は、たいていひとりでも生きていける強さを持っているが、それに比べて誉はか弱い種族らしい。
大切にしないときっとすぐに壊れる。
「俺のことを……どう思っている?」
布団の上に、ころんとキャラメルが転がった。
『え……』
する、と片手で誉の小さな顔を包むようにして触れる。
灯は行灯のみの薄ぼんやりした部屋でも、染まっていくのが分かる。
誉の顔は色鮮やかに、薄桃色から赤へとーーー
さぁ、言ってみろ……
『……す……っ、き……!』
妻は
息もできないような、そんないっぱいいっぱいの状態で、言葉を振り絞った。