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藍城家の日常
第7章 姫はじめ ~形勢逆転の夜~
架音は恐らく気を利かせて誉を休ませるようにそう言ったのだろう。
それなのだから、とっとと休めばいいのにと、夜光はじろりと彼女を睨んだ。
誉は何というか、あらゆるところに鈍いのである。そこが、美点にも欠点にもなっている。
『それであの……お酒を御用意しましたので、良かったら召しあがってくださいね』
ーー体が温まって、きっと、ぐっすり眠れますからーー
そっと自分の傍に置かれた黒い盆の上には、一本分の徳利と御猪口に、つまみの小鉢。
『こちらに、置いておきますから』
「誉」
『はい、何ですか?』
ぱち、と大きな瞳がひとつ瞬きをする。
「……行くな」
夜光は徳利から直接酒を口に含み、腰を少し上げて立ち上がる姿勢を取る誉の腕を掴んで引いた。
『あっ……んん、』
崩れ落ちるようにして自分の胸に入ってくる彼女に、深い口付けをする。
吸い寄せられるように重なった唇の端からツっと雫が垂れ、誉の喉が小さく震えた。
喉の奥が、かあっと熱を帯びていく。
(苦い……っ)
口の中に広がっていく、慣れない酒の味に、誉は眉をしかめた。
『っけふ……!』
口の中で温められて一層香る強い酒の匂いに、思わずむせかえりそうになってしまう。
誉は唇を離して顔を背けた。
「なぁ、誉……つまみが居なくなると酒が進まなくて困るだろう……」
耳元で、彼の深い呼吸が聞こえる。
彼の唇が耳に付くか付かないかのすれすれを彷徨わせながら、吐息交じりのずるい声を響かしている。
『おつまみなら、そこに……っん、ふ……、ぅ、っ』
夜光は誉の小さくて真っ赤になっている耳をかぷりと食み、くち、と指を彼女の唇の中に押し込んで銜えさせた。
そうすると、誉の従順な身体はたちまちスイッチが入り、すんなりと夜光の指にちゅうっと吸い付き愛撫を始める。
「、……酒のつまみはお前で十分だ。お前も、今夜はもう休めばいい……」
『んっ……ん、はひ……はむ、……っ』
誉はうっとりとして、こくこくと頷いた。