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藍城家の日常
第7章 姫はじめ ~形勢逆転の夜~

……彼のこの手が、好きだ。
大きくて、丈夫で、私を優しく包み込んでくれる。
ゆっくりと私の頭を撫で、髪を梳いてくれる。私の体を、激しく攻めてくれる。
しっかりと、私の手を握ってくれる……

この手が、好き……好きでたまらない……

誉はとろんと瞳をとろかして、両手で彼の手を包み懸命に指を銜える。

分かっている。
これはおしゃぶりの手順なのだ。私の口の中を、確かめている……


「誉……お前は滅多に酒を飲まないな……」


温かくて、驚くほど柔らかい彼女の口の中を、指で味わいながら夜光は呟く。


『は、い……あまり……飲んだことが、なくて……』


早速回り始めた酒に、頭がくらくらし始める。
体の弱い彼女には、酒は少量でも強すぎるのだ。


「今夜慣れろ」


ちゅぷ、と指が引き抜かれる。


『んんっ!』


夜光は再び徳利を傾け、口の含んだ後、誉に口移しで飲ませた。
また唇の端から、先程と同じ線を辿って雫が零れ落ちて、パタンパタンと衣の上を滑って行く。

たまにはお前と酒を交わしたい夜もある……
酒が与えてくれる渇きや高揚感が、体中を巡って、芯から熱くなって、媚薬になってくれる……

酒と、お前に、とっぷりと溺れたい。
たまには……良いだろう?


『ぅ……ふ、ぁ…でも、炎鬼兄さんが酒は控えろと……』


約束を……と、言いかけたところで誉はハッとし、そろりそろりと、夜光の顔を見上げた。


「…………俺と居るときは良いんだよ……そいつの名を口に出すな」


先程よりも強引に口を塞がれて、また酒が喉に流し込まれる。
じわり、じわりと体中に広がっていく熱……

彼の不機嫌スイッチが入ってしまった。夜光様には、炎鬼兄さんが地雷なのである。


『あ……っ、ふぁ……ん』


酒と、彼の冷たい唇と舌が、誉の頭の中を溶かしていく……

艶のある深紅の情欲に染められていく、

体が欲しいままにしたいと叫ぶ。

欲しい……
誉はふわふわと意識が浮いて、自分が分からなくなっていく感覚を覚えた。
蕩けた瞳でぼうっと己を見つめる誉に、夜光はいつもの不適な笑みを浮かべる。


「おい、誉……もう、年が明けたぞ……」


さあ、

姫はじめといくか……

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