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藍城家の日常
第7章 姫はじめ ~形勢逆転の夜~
『……夜光様』
いつもよりやや低くて落ち着いた声で彼を呼ぶ誉。
うっとりとしながら、艶のある表情で笑みを作る。
それから、積極的にも彼をゆっくりと押し倒して……
どすっ
すっくと立ち上がるや否や、その厚い胸に片足を乗せた。
体にも頭にも、小さな衝撃が夜光を揺さぶる。
「…………は?」
上から見下ろしてくる彼女の視線は、冷たくて、明らかに普段通りのものではない。
脱がしかけの衣は乱れずり落ちて、誉は半裸でありながらも恥じる姿は微塵もなかった。
『つまらない、です……』
はぁ……
誉は顔を反らして、おもーい溜め息を吐いている。
何が起こったか、夜光は全く分からない。
『毎日毎日……獣のようにお盛りになって……いつもいつも夜光様が主導権を握ってらっしゃいます。……ええ、本来はそうあるべきことなのですが、私はそれが……少し憂鬱に感じるときがありますの……』
激しい夜の営みは、女として心身共に幸福に酔いしれることができるけれど……
たまには、こちらが主導権を握ってみたいのです。
思い切り、私の好きなように、あなた様を愛してみたいのです。
『……いけませんか?夜光様……』
たまになら……
新年の、姫はじめだけで良いから……
……許してくれませんか?
「……」
余裕のある表情で淡々とそう話す妻を、夜光ははじめポカンとして見つめていたが、次第に彼女の言葉を飲み込んでいった。
酒を飲んで、たがが外れたか……?
今の言葉は彼女の本心なのだろうか?
それとも、恐らく誉自身も無意識に持っている潜在的な心理が、こうして表に出たのか?
??
物欲し気に、見つめる誉。
いつもの従順で素直な瞳は、艶をたっぷり含んで、やや据わっている。
その視線は恨みがましいそうに鋭く、口元には冷たい微笑を浮かべているのだ。
……二重人格?