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藍城家の日常
第1章 私の旦那様
(あ……)


右手を顔に当てている夜光を見て、誉は目をパチパチした。


(照れている……のだろうか、もしかして、喜んでらっしゃる?)


右手を開いたまま顔を覆って、表情を隠そうとする、彼の癖なのだ。

そうすれば、ゆるゆると上がる口元も、赤くなる頬も、大体隠れてしまうではないか。


『夜光様?』


チャプ……
そろりそろりと近付いて、誉は夜光を覗いた。
相変わらず喜怒哀楽が見えないお方だけど、なんとなく伝わってくる。

口元が緩んでいる……気がする。
彼は嬉しいのだ。


「…………ワルカッタナ」

『は?』


夜光は誉と目を合わさずに、聞き取るのがやっとの声量で謝った。

が、水の音でかき消され、生憎誉の耳には届かなかったようで……


『何か仰いましたか?』

「何でもねぇ」


聞き返さればつが悪くなり、それで終わってしまった。
むっつりして黙りこくっている夜光に、誉はまた不安になる。


そろり……

チュ……
誉はそっと、夫の唇に自分の唇を重ねた。
触れるだけの、小鳥のような可愛いキス。


『もう……夜光様、私はあなた様の妻です。裏切ったり、しませんから……』


誉はまっすぐに夜光を見上げて、安心してほしくて、ふわりと笑ってみせた。



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