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藍城家の日常
第2章 出逢いのち初夜
ーーーお召し物を部屋に置いた後。
『失礼しました……』
「うん、ありがとう」
本や書物で溢れている部屋の中、本の山からくぐもったお礼が聞こえた。
(本当にこれで良いのかしら……)
パタン……
誉はしっくり行かず、曇った表情のまま扉を閉める。
いくら虹覇様が優しいと言えど、罪悪感……
自分が転んだのに……
誉はふぅ、と小さな溜め息をついて顔を上げた。
(あ……)
先ほど助けてくれた男が、また扉の前で待っているのを誉はとらえた。
(まだお礼を申し上げていなかった)
誉は右手を左手に添えて、おずおずと近付く。
彼は足音にぴくりと瞼を開け、視線だけこちらへ向けた。
『あの……先程はどうもありがとうございました』
「ふん……」
“どうでもいい”と言うような顔。
あまりにもそのそっけない顔がさっきと一緒だったので、誉は口元を緩ませた。
『ずっと待ってらっしゃる様子ですが、喉が渇きませんか?今日は少し暑いので、何か冷たいお飲み物を、お持ちしましょうか』
何かお礼をしようと思って提案してみる。
「……いらねぇ」
そっけない返事が返ってきた。
『……そうですか』
誉はぺこりと礼をすると、廊下をあとに歩き出す。
いらないと言われれば、仕方がない。
私にできることはそれぐらいなのだから。
少しシュンとする誉が階段を下りかかる時。
「女!」
はっきりとした、彼の声が廊下に響き、誉はびっくりして、肩を震わす。
(今、呼ばれた?)
振り向くと、彼の体がこちらを向いている。
『え……』
「……水を一杯持ってこい。今度は滑るな」
無表情で要求する彼に、誉は目を見開いた後、すぐに笑顔を見せた。
『はい!承知しました』
誉は目元を綻ばせたまま、急ぎ足で階段を下りていった。
ーーーーー
『はっ……はっ……』
小さく息を切らしながら、廊下を駆けていると、女官から廊下は走るな!と怒られる。
誉はちょこちょこと早足で歩いた。
手にはガラスのコップと水差し。
揺れる度、ちゃぷちゃぷと音を立てている。
『はぁ……っ』
1階の井戸から水を汲んで、最上階まで持っていくのはキツい。
額に汗が滲み始める。
あと1階で最上階だ。
廊下の踊り場を回った刹那、ドンッと逞しい何かにぶつかった。
『失礼しました……』
「うん、ありがとう」
本や書物で溢れている部屋の中、本の山からくぐもったお礼が聞こえた。
(本当にこれで良いのかしら……)
パタン……
誉はしっくり行かず、曇った表情のまま扉を閉める。
いくら虹覇様が優しいと言えど、罪悪感……
自分が転んだのに……
誉はふぅ、と小さな溜め息をついて顔を上げた。
(あ……)
先ほど助けてくれた男が、また扉の前で待っているのを誉はとらえた。
(まだお礼を申し上げていなかった)
誉は右手を左手に添えて、おずおずと近付く。
彼は足音にぴくりと瞼を開け、視線だけこちらへ向けた。
『あの……先程はどうもありがとうございました』
「ふん……」
“どうでもいい”と言うような顔。
あまりにもそのそっけない顔がさっきと一緒だったので、誉は口元を緩ませた。
『ずっと待ってらっしゃる様子ですが、喉が渇きませんか?今日は少し暑いので、何か冷たいお飲み物を、お持ちしましょうか』
何かお礼をしようと思って提案してみる。
「……いらねぇ」
そっけない返事が返ってきた。
『……そうですか』
誉はぺこりと礼をすると、廊下をあとに歩き出す。
いらないと言われれば、仕方がない。
私にできることはそれぐらいなのだから。
少しシュンとする誉が階段を下りかかる時。
「女!」
はっきりとした、彼の声が廊下に響き、誉はびっくりして、肩を震わす。
(今、呼ばれた?)
振り向くと、彼の体がこちらを向いている。
『え……』
「……水を一杯持ってこい。今度は滑るな」
無表情で要求する彼に、誉は目を見開いた後、すぐに笑顔を見せた。
『はい!承知しました』
誉は目元を綻ばせたまま、急ぎ足で階段を下りていった。
ーーーーー
『はっ……はっ……』
小さく息を切らしながら、廊下を駆けていると、女官から廊下は走るな!と怒られる。
誉はちょこちょこと早足で歩いた。
手にはガラスのコップと水差し。
揺れる度、ちゃぷちゃぷと音を立てている。
『はぁ……っ』
1階の井戸から水を汲んで、最上階まで持っていくのはキツい。
額に汗が滲み始める。
あと1階で最上階だ。
廊下の踊り場を回った刹那、ドンッと逞しい何かにぶつかった。