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藍城家の日常
第2章 出逢いのち初夜
笑われて、炎鬼はどうしたものかと困った顔をしている。


「じゃ、じゃあ……もしも、もしもだが……これは冗談ととってくれ、もしも……」


もしもを言い過ぎな炎鬼である。
視線をあらゆる方向に向ける炎鬼に、誉は不審そうに見つめた。


『……?』

「おr……。他の男に嫁げと言われたらどうする?」


こしょこしょと囁く炎鬼は何か言いかけて、誉の肩に手を置きぐっと一層険しい顔になってこちらを見つめた。


『……』

「……」


誉は宙を見つめて考える。


『良いですよ』


誉はふ、と微笑んだ。


「っ何!?」


炎鬼は目を見開き、口を大きく開ける。


『私、誰でも良いです』

「本当に言ってるのか!?」


炎鬼は誉の肩を小さくゆさゆさする。
どうしてそんなに必死なのかと、誉は不思議に思った。


『はい。こんな私をめとってくださる方が居るのなら。私にできることは、その方を受け入れて、お支えすることぐらいしか、ありませんけど……』


真っ直ぐ炎鬼を見つめて話す誉に、炎鬼の瞳が大きく揺らいだように見えた。


「な、何でそんな……誰でも良いなんて、言う?誉、どうしてそんなに諦めがつくんだ」

『諦めではありません。私はもがき苦しむような飢えも、心まで引き裂かれそうな暴力も、今まで経験しました。そうした中で思ったのは、死ぬよりもマシな事はたくさんあるということです』

「……!」

『私、欲張りません。我慢できるものは我慢して、克服したいと思っているのです。受け入れる努力をしたいのです』


誉は自分の言葉を心の中で確かめるように繰り返した。

あまりにも真っ直ぐで、純粋な答えに炎鬼は何も言えずにいた。

しかしやがて、ゆっくりと目を伏せ、悲しそうにぽつりと呟く。


「もっと自分を大切にしろ……」

『……炎鬼兄さん。どうしてこんな話を?しかも、こんな所で』

「いや……何でもない。仕事に戻る。これから三日ばかり出かけるけど、留守番できるな?」

『……はい。出張ですね。いってらっしゃい……兄さん。お土産、楽しみにしていますからね!』


少し寂しそうに微笑む誉を炎鬼はまた、ポンポンと頭を撫でてから、階段を降りていった。


誉はそんな彼を見送ってから、両手のものを見て自分の仕事を思い出した。




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