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藍城家の日常
第2章 出逢いのち初夜
やがてしばらくして、夜光は手を頭に置き、重い溜め息をついたのだった。


「笑うねぇ……はっ、無理だな。可笑しくもねぇのに笑えるか」

『そんなことありません!笑顔を作れば、不思議と嬉しくなったりしますし、周りの皆も何だか安心するんですよ。本当です』


真剣な面差しで言う誉の勢いに、夜光はまた呆れ顔をした。


「どうしてそんなに自信満々なんだ……」

『実体験だからです。ですが、一番良いのは、安心できて、自然と笑っていられるひとが居るか、です。そんなひとができれば、きっとどんなことでも乗り越えられるような気がします』

「……」


夜光は誉の言葉をただ黙って聞いていた。

穏やかな沈黙がふたりの間に流れる。
誉はふと窓の外の眩しい晴天を見つめた。


『……、』


夜光の視線を感じて、誉は窓から目を離し、彼と正面を向く。

夜光は汚いことは何も知らなそうな、この純粋な娘を赤い瞳に写していた。


「……なら、さっさと好きな男でも作れ。お前みたいな女ならすぐにできる。逆に利用される可能性もあるがな……」


静かに口を開いた夜光の言葉に、誉は目を見開いた。


『つ、作りません。そんなひと……』


誉は咄嗟に顔を俯かせて、もごもご何かを言おうとするけれど、結局口を閉ざす。

夜光はもたれていた背を起こした。
ギッ、と長椅子が音を立てる。


「……何故」


ぐっと顔を近づけ、夜光は耳元で囁くように問う。
間近に聞こえた声が、もんもんと耳から頭へと響いていった。


『そうゆうの……よく分からないんです。誰かに恋をするのが、よく、分かりません』

(それに、怖い……)


恋をしたら自分はどうなってしまうのか。
前の自分にはもう戻れなくなるのではないかと、漠然とした不安がもやもやと胸を漂うのだ。

自信なさげな誉のその顎を、夜光は掴んで自分に向けた。


「……結婚してもしなくてもいい。結婚するひとは誰でもいい。誉、そう言っていたな」

『!』

(さっきの話を、聞かれていた……!)


誉は目を見張って、息を止めた。


「お前はどこかで、自分の人生を諦めているな。自分で自分の幸せを掴むより、誰かに引っ張ってもらいたいんだな?」


誰でも良いからーーー


「…………誰でも良いのなら俺のものになれ」



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