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藍城家の日常
第2章 出逢いのち初夜
『ですが、そんなに嫌でもありませんでしたし、怖くなかったです』


ただ心底びっくりしただけ、それだけだ。
これには誉自身もびっくりしている。

本当に誰でも良いと、体は受け入れてしまっているのだろうか。


『……どうしてでしょう。夜光様だからでしょうか』

「お前……その言い方だとまるで俺に気があるみたいだな」

『え、ぇえ?まさか!』


誉は正直に言う。
ズバッと切られて、何か不満で夜光はむっとした。


「……」


夜光は誉の柔らかい髪を片手で掴み、くんっと弱い力で引き寄せた。


『あの……』

(近い……顔が、いや、彼が……)


吐息がぶつかるすれすれの隙間をさ迷う唇。
衣を通して感じる固い体。
こんなに間近に炎鬼以外の男性を感じることは、誉はなかった。

夜光の瞳は揺らがない。


「……何だ」

『……、』


誉は唇を結んで、ごくりと唾を飲み込む。
また口付けをされるのでは、そう思ってしまう。


「……期待してるのか」

『へ……』

「口付け以上のコトを、期待しているのか……」

『!』


誉は口を鯉のようにぱくぱくする。


『な……っ、していません!』

「本当に、そうか……?」


熱くしっとりとした吐息が首筋を纏って、誉の肌はざわざわと波立った。

夜光のゴツゴツとした手が誉の衣をまさぐる。


『ひ……、ぃ……いや……夜光様、お止めください!』

「誰でも良いとはこういうことだ……」


その言葉に、誉の目が見開かれた刹那ーーー


ガチャっ
応接間の扉が大きく開かれた。


「む。此処に居たのか夜光……おっと、邪魔をしたか?」

「……」

『!!』


誉は目を見張り口をあんぐり開け、体をカチコチに固めた。

あ、あの血が滴るように赤黒く長い髪を、雅に流す方は……

帝、結羅(ゆら)様……



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