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藍城家の日常
第2章 出逢いのち初夜
『ひ、ひ、ひぇ……っ』

この世界を統治する最高峰の人物に、あろうことか、とんでもない所を見られてしまった。

顔を赤くしたり、青くしたりと忙しそうな誉を抱きかかえて、夜光は舌打ちをした。


「爺……最初から聞き耳立ててやがったな」

「ふむ。お主の様子がいつもと違うていたからな……何をするかと思えば、好色か」


にやにやと面白そうに笑う、目の前の男。
誉は炎鬼に、帝は何前年と生きている長寿だと聞いた。

けれど実際にこの目にしても、普通の若い男となんら変わらない。

……なのに物腰は落ち着き払っていて貫禄を感じる、なんとも不思議な方だ。


「その下女はやめておけ。お前にとっては気に入った猫を拾うに過ぎないだろうが……他の者にとってはそうではない」

「黙れ。今日から俺のものにする、結羅……お前は口答えするな」


さっきから何て口の利き方だろう、と誉は思った。

いくら身分は関係ないというスタンスの夜光様も、さすがに帝相手に失礼ではなかろうか。

しかし帝は彼の口の利き方には、一切不快な表情は見せない。

もしかしたら、ふたりは特別な関係なのかもしれない。


「ふむ……女を食っては捨てているお前だから、遊び飽きたら放るのだろう……尚更こじれることになるな……」


帝はふぅ、と息を吐いて呟く。
誉はふたりの会話を追うことしかできなかった。


『あ、あの……あっ!?』


おろおろした誉が何かを言いかけた瞬間、視界がぐるりと回る。

夜光はまるで、狩りでしとめた獲物を持ち帰るようにして、誉の体を肩に乗せて担いだ。

そのままのっしのっしと応接間を出ていく。


「炎鬼と話したばかりなのだがな……」


去り際に、そんな結羅の独り言を誉は聞いていた。
誉は何も言えず、何の抵抗もできずにただ運ばれていくしかなかった。


(結羅様は炎鬼兄さんに何を話したのだろう…………私は、一体何処へ連れていかれるんだろう……)


それに


(私はどうして抵抗しないのだろう……不思議と怖くない…………あぁ)


誉はぼんやりと考える。


(……やっぱり、自分の運命をどこかで諦めているんだ……)



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