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藍城家の日常
第2章 出逢いのち初夜
ーーー日はすっかり沈みかけている。

されるがままに、たどり着いたのは荘厳なお屋敷だった。

日本家屋の門や塀から、年月を感じる。
広くて立派なそれを、誉はポカンと口を開けて、眺めていた。


『ここは……』

「……藍城家」


夜光が古びた門をくぐり抜けると、何やら軽快な足音がする。
誰かが近付いてきた。


「お帰り主!今日の帰りは早かったね……ほ?」


はつらつとした口調で向かえた、気の強そうな女は、誉を見るなりフリーズした。


『……』

「あ、主が女を、屋敷に連れてきた……しかも、大して美女でもない女を……一体どうしたっていうんだ……主……!?」

「……架音、コイツに飯を食わせて湯に入れろ」


何でもないようにスルーした夜光に、架音と呼ばれた女はすぐさまカクカクと頷いた。


「あ、あいよ……」


それから夜光は振り向いて、降ろされてからずっと後ろにいた誉をじろりと見る。

びくっ


「『……』」


視線が交わる。
冷たい眼差しと、僅かに怯えた瞳が。


「……ふん」


夜光はちょっと誉を見つめた後、その美しい髪を揺らして、何処かへ言ってしまった。

残されたふたりは、ぎこちなく顔を見合わせる。


「あ、あたしは架音。主から雇われた使用人みたいなもんだ。とりあえず、主に言われた通りにするけど……」

『はい、あの、よろしくお願いします。誉です』


気さくな話し方をするので、誉は少し胸を撫で下ろす。

ペコリと頭を下げた誉に、架音は腑に落ちなさそうな表情を浮かべて、頬をぽりぽりとかいた。



ーーーーーとっぷりと夜を迎える。

出された夕食をひとりで食べ、風呂に入らされた誉は、四畳半の部屋の中。

まるで借りてきた猫のようにチョコンと座って、何処かへ行ったまま戻ってこない夜光を、ただひたすら待っていた。


『……』


誉は何度もぐるりと部屋を見渡す。

畳の上に、布団一枚のみ。

この四畳半の部屋、一方は襖で仕切られ、三方は白い障子に格子のような木枠がはめられている。

まるで……


(籠みたい……)


耳を澄ますと、庭の木々のさわさわと揺れる音だけが聞こえる。




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